Le CharmeYJ白雪の藤丸にはまって作ってしまったwebsiteです

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7th August, 2014
Short Story/
Fujimaru, the New Hachiohji Head of a ward, has stationed !/藤丸新八王子区長、着任!をup
1st August, 2014
Five Years After the Battle in Shinjuku 3-4をup
4th July, 2014 サイト開設



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藤丸がその幽霊の噂を聞いたのは初めてではなかった。
ただでさえ、病院は死に満ちみちている場所だ。
しかも、ここはそれを望まない人々が毒林檎を右手に埋め込まれ、適合しなければ否応なくその生涯を果てる場所となっている。
無理矢理そんな実験の被験体になってしまった人が、恨みをもって化けて出てきても、全く不思議はなかった。
白いドレスに、血のような紅いヴェールを纏った幼女が、夜な夜な適合できない実験体を訪ねて、その訪問を受けた実験体は死ぬ、という噂は別に藤丸にとって初耳ではない。
自分は適合したので、そんなものは見ないで済んだが、今の状況を考えると、あの時に会っておけばよかったとも思った。
ただ、ケンがそんな自分には聞き飽きたオカルト話をした夜に、見慣れない人影が自分のベッドの足下にちょこんと手をかけてつかまっていたのを発見したときは、さすがに驚いた。
午前二時に、なぜかベッドで目が覚めてしまった藤丸は、ぼおっと足下に白い人影ーその身長から幼女と思われるーを見つけて、びくっとしたのだ。
が、特にそれ以上自分に対して行動を起こさないような様子に、冷静に、噂を確かめようとベッドから抜け出て本当は何がいるのか、足下に近よってみた。
隣で眠っているケンのいびきが、低く聞こえてくる。
ベッドの足下に着いて、その手の主を見ようと視線を下げると、目に入ったのは女の子の顔だった。
ー幽霊?
特に怖くもないので、じっとその女の子の目を見る。
「お前、幽霊か?」
彼女に触れようとして、包帯まみれの右手を彼女に撫でられて、くるっとその幼女は踵を返す。
彼女の顔を見詰める藤丸に、にこっと笑顔を返して、その人影は藤丸の病室を出て、何処かへ消え去って行った。


「ケン、あの噂本当かもしれねぇ。」
変な幼女と会った翌日、朝食をケンと一緒に病院の食堂で取っている時に、藤丸が言った。
「お、やっぱり日本にも、ゴースト・ストーリーってあるんだな。」
珍しく、自分の振った話題に何も反論なく賛成意見を藤丸からもらって、ケンは米国の奇妙な話をもっと話そうとする。
「じゃなくって、」
勝手に自分の話題に移そうとする、ケンの朝食シリアルに、ぐさっと藤丸は箸を立てる。
「藤丸、醤油混ぜんなよ。」
ほのかに日本産アミノ酸が追加されたシリアルを、ケンはスプーンで食べる。
「普通の女の子に見えたぜ。あれ。」
と藤丸が呟くと、
まじで?、とケンが返して、足あったか?と聞いてきた。
「うん。」
と自分の病室を出て行った時の、ぱたぱたと聞こえてきた足音を思い出して言う。
「ふーん、、、、」
と左手を口にあてて考え込むケンをよそに、藤丸は卵かけごはんを不器用にかき込むのだった。


「お前、また来たのか?」
また午前2時の、人を訪問するには適さない時間に来た、昨日の幽霊に藤丸はベッドから身体を起こして話しかける。
今度は足下ではなく、自分の枕元近くまで寄って来ていたので、藤丸は彼女のベッドにかけられている右手に触れた。
本物の幽霊はどうなのか分からないが、手に触れている感触はある。
「お前の手、きれいだな。」
藤丸の右手の包帯に触れている彼女の手が一瞬止まる。
「こんな目にあわなくってすんでるんなら、その方がいいんだぜ。」
藤丸に触れられている自分の手を除けて、彼女は申し訳なさそうに彼を見た。
「?」
ー何であんな顔すんだよ。幽霊なのに。
初めて会った日とは違う、別の感情を写す目を向けて去る彼女に、藤丸は何を言えばいいのか分からなかった。


「ほら、藤丸。英語の本、来たぞ。」
最近、幽霊話にとらわれている藤丸の気を反らそうと、ケンは父親から送ってもらった、子供用の英語教材を、彼の目の前に差し出した。
「ああ、、、うん。。。」
その本を手には取ったが、それを開かない彼の様子に、これは幽霊の女の子のせいか?とケンが推測を始める。
「あっ!!」
と藤丸が声を上げて、ケンの渡した本を片手に、病室を飛び出して行った。
ー藤丸?
と、その出て行った病室のドアを見たが、それ以上彼の行動の原因はそこから探れず、最初に藤丸が見ていた病室の窓に視線を写す。
病室から2、3部屋離れた病院の外周の庭に出られる扉から出たらしく、藤丸が庭を走っている様子が目に入り、その先には・・・・・・。
ケンの記憶にまだ残っている、自分がグリムロックを移植された時にいた幼女、に似ている女の子がそこにいると思われた。
ー幽霊の正体は、あの子か・・・
藤丸がその幼女に話しかける様子からは、彼女がこの研究所でどんな役割を負っているのか知らないように見えた。
しかし、移植の時のぼんやりとした記憶では、はっきりと確信を持てるわけでもなく。
見間違えかもな、と思ったケンは、それ以上窓の外は見ずに、自分の実験スケジュールを確認しようと、病室のカーテンを、シャッ、と閉めたのだった。


「お前、幽霊じゃなかったんだな。」
藤丸よりも、少し、背の低い彼女の様子を見て、藤丸は嬉しそうな表情を浮かべて彼女に言った。
藤丸がいる研究所付属の病院から外に出た所は建物から7、8m程のスペースの庭がぐるっと周りを取り巻いており、その外の世界を隔てる高い塀との間の緑のオープンスペースには、2、3m程度の高さの様々な種類の樹木が気まぐれのように植わっている。
梅雨が過ぎて瑞々しい芝生が輝く季節の今は、全ての緑の植物が、その生命力を最大限に日の光の元に誇示していた。
何の返事もない彼女に
「こえ、でねぇのか?」
と言ったが、 それには答えずに、幼女は藤丸の持っている本に手を触れる。
「これ、珍しいのか?」
うんうん、と頷く彼女の言うままにすぐ近くの木の下に座って、絵本を開いた。
ーぜんっ!ぜんわかんねぇー!!!!
となりの幽霊が興味深そうに、ページを繰るが、藤丸にはまったく(文字通り)異次元の言葉がその絵本には書き付けられている。
「おい、お前これ、わかんのか?」
元幽霊に話しかけると、ぶんぶん、と素直に首を振ってくる。
「じゃあ、なんで楽しそうに、本めくってんだよ。」
藤丸が理解できない行動に、幽霊少女はにっこり笑って、藤丸を指差した。
「ああ、、、オレの行動が面白いから?」
ーおい、、、ふざけんな。。。。。
ちょっと可愛いからって、気を許したらこれかよ、と将来教訓になりそうな状況が浮かび出る。
それでも、絵を見ているだけでも楽しいらしく、白いドレスに赤いヴェールを纏っているその自分より2、3歳年下に見える女の子は、黒髪のお姫様とそれを取り囲む7人の小人の挿絵を楽しそうに見ていた。
「お前、・・・・・・、また来れるんだったら、それまでになんて書いてあるのか、調べといてやるよ。」
ニコニコしながら、自分の隣で絵本のページをめくる彼女の素直な様子に、いつもケンと話しているような言葉を投げるのも、大人げない気がして、軽くため息をついて藤丸が言った。
彼女のページを繰る手が止まり、きょとん、としてその目が藤丸をじっと見る。
「これさ、ケンに英語習うのにもらったやつだからさ。ついでだよ。お前もなんて書いてるか、分かった方が楽しいだろ?」
彼女の目が嬉しそうに輝いて、こくこく、と自分の目を見て頷く。
「じゃ、なるべく昼間に来いよ。」
と、腰を上げて病室に帰ろうとする。
すると、その元幽霊も木の下から立ち上がり、ありがとう、というように藤丸に絵本を返した。
おう、と受け取ろうとすると、まだ絵本から手を離さずに、何か聞きたそうな目で見つめてくる。
「オレ?藤丸。お前は?って声でねぇんだったな。」
その答えが欲しかったらしく、ぱっ、と絵本から手を離し、バイバイ、と彼女は手を振って、たたた、と赤いヴェールを翻してその場を走り去った。
ー右手、の実験じゃないなら、何でこんなとこいるんだ?
ここに来てから、今までになかった種類の出会いに、藤丸は正体不明の紅いヴェールの女の子の存在を不思議に思うのだった。


「ふーん、幽霊は本当は人間の女の子だったのか。」
実験が終わった後に、病室で藤丸のベッドの側に椅子を寄せて、早速彼にABCから英語を教えている時に、この前の夜の出来事と、昨日の庭にいた女の子の話が出てきて、ケンが藤丸の話から病院オカルト話の正体を言い当てた。
「ま、夜中の2時にこんなことぷらぷらしてるだけで、怪しいけどよ。」
ふむ、とケンが少し考えて、口を開いた。
「でも、ここの研究所のセキュリティはかなり厳しいぞ。そんな正体不明の女の子が、気軽に入って来れないと思うがな。」
「じゃ、幽霊と別なのかもな。」
取りあえず、アルファベットと、簡単な単語を教えて終わらせようとしたケンに、ちょっと待てよ、と藤丸が彼女と一緒に見ていた絵本を出してくる。
「これは、、、まだちょっと早いぞ。」
まだ簡単な英会話も教えていないのに、まとまった文章は、、、とケンが言って来る。
「取りあえず、この辺、なんて書いてあるか教えてくれればいいから。」
藤丸がぱらぱらぱら、とページをめくって、木の下で二人で見ていた時に印象に残っていた”Snow White and the Seven Dwarves”の所をケンに見せる。
何でこんなに積極的なんだ?とケンは疑問に思ったが、あっ、と思い当たってにま、と薄ら笑いが顔に浮かんだ。
「いーとこ見せたいんだろ、藤丸。」
にやにや自分に顔を近づけて笑いかけてくるのに、藤丸はぴくっと眉を吊り上げて、ぱたん、と本を閉じるとそれを振り上げ、ごん、と絵本の背でケンの頭を殴った。
「いてぇ・・・・・・・、お前、先生に何すんだ。。」
すぐに涙目になったケンに、
「よこしまな想像してる時点で、もう先生でも何でもねぇよ!」
とじろりと視線を流し、ほら、ここ訳せよ、とさっきのページを突きつける。
「Snow white、白雪姫の話だな。」
英文を見ながらケンは日本語にしていったが、訳しながら、日本語の本借りた方が早いかもな、と言いかけ、そだな、と藤丸もそれを聞きながら答えた。


11月も下旬になると、東京の研究所にも木枯らしが頻繁に吹き始め、K・Kの携帯には家族から時節連絡が入って来るようになった。
「動けるなら、クリスマスぐらい帰ってこいって、言ってきてるんだ。」
家族、というものを失ってから大分経つ藤丸には、クリスマス、も帰ってこい、と言われる状況もあまり想像できない。
「ふーん。」
と相づちをうつだけの藤丸に、
「藤丸、クリスマスは何か予定あるのか?」
とK・Kが聞いてくる。
何を今更、と思ったが、K・Kの表情が少し真剣に見えたので、さらりと答えた。
「オレは、実の親に売られてここにいるんだぜ。実験スケジュール以外、予定があるわけねーだろ。」
その以外に突き放した、乾いた感じの答えに、K・Kは少し安心したようだった。
「イブまでには帰って来るから、何か欲しいもの考えとけ。サンタの代わりぐらいやってやる。」
そのいつもの調子に、藤丸はふん、と口端を上げる。
「またお前とパーティーかよ。いい加減飽きんぜ。」
そういうなよ、とK・Kが笑って、ふっと思い出したように呟いた。
「そういえば、赤い幽霊ちゃんはどうしたんだ?」
その言葉に、思い出したように藤丸は、そういや会ってねぇな、と言う。
12月に入った頃に、K・Kはクリスマス休暇、の名目で米国に一時帰国したのだった。
いつも隣にいた、ガタイのある大きいのがいなくなって、久々に藤丸は広々とした一人部屋で伸びをする。
ーたまには誰もいねぇのもいいかもな。
例年よりも大分寒い冬で、ある日、寒さに目を覚ますと、外の庭は一面雪に覆われ真っ白になっていた。
ーさみーはずだ。
窓が寒さにかたかた震えている音がして、藤丸はその音のする方へ近づいて行った。
と、
「お前、、、こんな日にどうしたんだ?」
窓から音がしているのは、そのすぐ下にいる人間が窓を叩いているせいだったようだ。
窓の側に椅子を寄せ、がらっと、窓を開けて、その正体を確かめようと椅子によじ上って外を見ると、白いファー付きフードが付いている真っ白いコートを着て、寒さに震えるあの幽霊が立っていた。
久々の再会にびっくりした藤丸だったが、
「取りあえず入れよ。さみーだろ。」
と、窓を大きく開けて、彼女の両手を左手で取り、えいっ、と力を入れて引き上げ、窓枠に手が届いた所でその手を離す。
「気をつけろよ。」
とぴょん、と自分が乗っていた椅子から飛び降り、彼女が窓から無事に部屋に入れるよう、見守った。
病室内の椅子にちゃんと着地できたその白いファーコートは、慎重に窓を閉めた後に、藤丸がしたように、ぴょんと椅子から降りると、にこ、と彼の方を向き、笑いかけた。
今までどうしてたんだ?、と聞きたい気持ちはあったが、自分の方を嬉しそうに見る彼女の顔を見ていたら、まいっか、と思って例のおとぎ話の絵本を自分のベッドの側からごそごそと取り出す。
とてとてと、彼の側に寄ってきた白い闖入者に
「これ、中身知りたかったんだろ?」
と声を掛けると、ぱっと彼女の顔が輝き、覚えていてもらった事が嬉しかったように、藤丸の持つ本の反対側を持ってうんうん、とちょっとそれを揺らす。
「ケンに教えてもらったからさ、もう大体分かるぜ。」
その辺座れよ、と言うと、その白幼女は少し周りを見回してから、ぱさっと、コートをK・Kのベッドに置くと、とすん、と藤丸のベッドに座った。
期待に満ちた目で藤丸を見て、ぽすぽす、と自分の隣のベッドの場所を招くようにたたく。
しょうがねぇな、という顔をして絵本を彼女の膝に置いて、藤丸がひょいっ、とそこに座ると、夏の木陰の下の記憶と同じ、赤いヴェールと白いドレスの彼女は、すぐに本を開く。
「やっぱ、それが一番気になるのか?」
“Snow White and the Seven Dwarves”の場所を探し当て、ニコニコ彼が話し始めるのを待っていた。
「“白雪姫と7人の小人”。
Once upon a time, long long ago a king and a queen ruled over a distant land.
“昔々、今よりずうっと前の事、王様と王妃様はある遠い国を治めていました。”」
藤丸の指が、どこを読んでいるのか文章をなぞり、元幽霊の彼女がそれを見ながら話に耳を傾ける。
「The queen was kind and lovely and all the people of the realm adored her.
“王妃様はとても思いやりがあり美しく、その王国の人々はみんな彼女のことを尊敬し憧れていました。”
The only sadness in the queen’s life was that she wished for a child but did not have one.
“ただ一つだけ、王妃様が悲しく思っていたのは、子どもが欲しいと願っているのにまだ一人もいない事でした。”」
彼の声が遠い国のおとぎ話の物語を紡ぎ、彼女はその声と、自分の現実にはない、夢の国のお話を楽しそうに聞き続けるだった。


気付かないうちに、窓の外の雪は吹雪に近くなり、まだ遅い時間ではないのに部屋に入って来る外光は暗い夕闇を帯びていた。
手元の絵本が3冊目になった時に、ふっと目を上げた藤丸が大分時間が経ったのに気付いて、そっと本を閉じて言う。
「お前、帰んなくていいのか?」
白コートの幼女の明るい紫の瞳が、寂しそうに彼を見る。
今日の彼の実験スケジュールはどうも、担当の研究員が吹雪で来れなかったらしく、いつの間にかキャンセルになっていた。
昼食ってないな、と思ったら、白コートの幽霊がそのコートの奥からサンドイッチを取り出してきて、いつの間にか時間が過ぎて行ったのだった。
「別に、帰りたくない事情があるならいいけどよ。」
ベッドの床に着かない足をぶらぶらさせて、彼女の視線から顔を外す。
別に無理に追い払おうと思っているわけではない彼の様子に、嬉しそうに包帯で白くなっている右手を彼女は触れた。
「でも、帰る所があるっていうのは、いいもんだぜ。」
逃げられるってことでもあるしな、と呟く藤丸に、とすん、と幼女は身体を預けてくる。
「疲れたんなら、寝てろよ。」
と、自分のベッドを譲って、彼女が寝入ったのを確認してから、藤丸はK・Kのベッドに移動した。
まだ眠くない藤丸が、病室でぼーっとしていると、その外は何時もより、ざわざわと人の声が騒がしい気がした。
時々耳に、白雪様がまた見つからない、、、、などと 聞こえてくる。
ー今日は楽しかったな。
とK・Kのベッドに横になっていたら、いつの間にか寝入ってしまい、夜9時頃目を覚ましたら、白コートの幼女はいなくなっていた。


それから、2、3日後。
阿久津藤丸、というのはここの病室か、という冷たい声が聞こえてきて、自分の病室のドアが、ガチャッと開いた。
実験中に聞き覚えのある女の声に、藤丸は背筋が凍る。
「阿久津藤丸くん、君は確か、非常に電気反応の適性が優秀な適合者だったね。」
色黒の肌に、白衣を着て、近づいてくる足音に自分の身体が総毛立つのを感じた。
その女が、自分の包帯に包まれた右手に触れ、愛おしそうに撫でてくるのを、一刻も早く逃れたいと顔を背ける。
「君は、非常に優秀な小人になりそうだ。うちのお姫様もよろしく頼むよ。」
見たくはなかったが、思わず視線を上に向けると、黒女の腕に何日か前に自分の隣にいた白い女の子が抱かれていた。
「白雪、という。適合者第一号、君にその右手の力を分けてくれた張本人だ。」
不安におびえた目で自分を見る彼女の顔を見て、藤丸はきゅっと口を引き結ぶ。
「もう、二度と来んなよ。」
黒女が去って行くのにまぎれて、白雪に投げられた言葉に、彼女は悲しそうな瞳をしたのだった。


「ホントにあいつ、成長しねーのな。」
そんな出来事から、5、6年経ったある日、久しぶりに自分のいる実験棟に移動してくる黒女と白雪を見て、藤丸が言う。
「そういう毒林檎の副作用だと、聞いた事あるな。」
病院棟の食堂からよく見えるその、渡り廊下を歩く白い幼女と黒い女を二人で見ながらK・Kが呟いた。
「しっかし、あの時は本当に心配したんだぞ。」
K・Kがまた昔の話を蒸し返してくる。
「別に、あのにババァに会った後はいっつも、すんげー気分悪ぃんだよ。」
前に、クリスマス休暇で一時帰国したお土産に、ターキーグリルとクグロフをベッドに置いたのに、じっと見たまま手も付けず、うつむいていた年の事だ。
「ま、何かあっても困るけどな。」
とK・Kが呟いたのを、食堂のメニューで、バン、と頭をはたく。
お前、すぐ暴力ふるうの良くないぞ、とK・Kが言うのに、てめぇこそ、その豊かな想像力もっと有効な事に使いやがれ、と言い返す。
それから数年経った運命の日、原因不明の隕石が日本へ衝突し、日本、東京の運命は混乱に陥ったのだった。


そして・・・・・・、出会いから10年の年月が流れる間、その、とらわれの子どもから少年になった彼は自らの決断で箱庭からの脱出を決意し、 幼女は自分をその箱庭から連れ出してくれる人を探し続け、兄弟に出会うのだ。


あの時の箱庭の悪夢から覚めた今、たまたまばったり出くわし、これといって今急用もない少年と幼女は、眺めのいい丘の、目印の岩のオブジェが高く積み上げられてある場所の草の上に、どちらともなく座り込む。
「よく考えたら、お前とも長い付き合いだよな。」
時間つぶしに修理用のスパナを放り投げて、受け取ってを繰り返している彼の動きを、白雪はそのリズム感のある動きに合わせて、視線と顔の動きが宙を描くスパナを追いかける。
「最初会った時は、ずいぶん可愛い幽霊がいるもんだ、って思ったんだぜ。」
彼女の方を見ずに、スパナを放り投げて、受け止めてを繰り返す様子に、白雪はにこっと、嬉しそうな笑顔を彼に向けて浮かべた。
「その後、どんどん要求してくっから、こいつふざけんな、って思ったけどな。」
その藤丸の言葉に、眉を寄せて動きが止まった白雪の困り顔を見て、ははっ、とスパナを一度、大きく放ってから受け止めて、彼女の目を見る。
「うそだよ、お姫様。」
その、少し重みのある金属を地面に着けて、もう少し彼女に話をしようとしたら、尊の声が遠くから聞こえてきた。
「お前、呼んでんぜ。」
藤丸の指し示す丘のふもとの方を見ると、いつも一緒にいるつんつん頭が彼女の目に入ってきた。
反対側の丘のふもとからK・Kの優しい声が、昼飯一緒に食わないかー、と聞こえてくる。
「あっ!ケン!」
行く行くー!、とすぐに腰を上げて藤丸は向かおうとしている。
「じゃな。」
と自分と反対方向へ翔て行く彼の姿を見送ってから、白雪は尊の方へぱたぱたと向かって行った。


幼い日から一度離れた二人の道程はまた交差したが、その取り巻く状況が激変した今では、途切れたストーリーから繋がる道はない。
でもそれぞれの物語は、新しい交差ポイントからその先へ、10年前は見えなかったルートへ繋がる、明るい未来の方向へ進んで行けるのだ。
誰の意図もにも揺るがない、自分の望む未来へと。