update information
7th August, 2014Short Story/
Fujimaru, the New Hachiohji Head of a ward, has stationed !/藤丸新八王子区長、着任!をup
1st August, 2014
Five Years After the Battle in Shinjuku 3-4をup
4th July, 2014 サイト開設
about
website master : kikourl : http://wisteria.yukigesho.com
banner : 200x180
潮宗一は今、大変な苦境に追い込まれていた。
大学卒業から失敗作適合者に職を変え、現在都庁の企画推進部に籍を置き、初めて単独で指揮を取る事になった自分発案のプロジェクトが、目の前で頓挫の危機に陥っているのだ。
ー予算がネックだな。
小規模のプロジェクト推進の際に発生する、お決まりの理由だ。
最初はうまくいっていた。
版権会社からの使用許可は以外とすんなりOKが出て、必要機材も順調にそろい、会場場所も押さえ、広告やチケット販売のルートも目処がついている。
しかし、業者からの見積りと、都からせしめた予算の収支は現時点でもぎりぎりで、これ以上オプションを付けたくても資金はなかった。
しかし、このままでは本当にありきたりのものに、というかありきたりすぎて失敗の可能性も・・・。
「うーむ・・・・」
気分転換に、自分のオフィスのデスクから都庁内にある噴水のある広場に場所を移したのだが、全く気分が転換できずに、石のベンチに腰掛け、いつも耳に挿している簪を手に取り、脇に置いてある企画ファイルをとんとんとん、と叩く。
せっかく都民向けに、久々の都行政から提供するエンターテイメントなのだから、今までにない新鮮味が是非とも必要だ。
もちろんその裏には、都民の方々に気持ちよくオカネを使ってもらい、カネ、モノの流れが止まっている東京の経済状態の活性化、という意図もあるのだが・・・。
簪でファイルの表紙をぱらっと開けて、今回の主役のイメージショットの上部にさくっと刺して取り出した。
そこには、エメラルドグリーンの長いツインテールで、ブラックのニーハイソックスが良く似合う、目の大きな、スタイルの良いつり目気味の女の子が写っている。
ー一人、というのが少し寂しいんだな。
そのイメージショットを、ぶらぶらと、目の前で手にした簪でそれを揺らす。
と、
「おー、宗一。」
噴水の向こうから、前に自分が渡した本を開きながら、藤丸が彼を見つけてやって来た。
「ちょっとさー、この本で分かんないとこがあるんだけどよ。」
その本の箇所に指を差し入れて、歩いてくるのと、目の前で自分がぶらぶらさせているイメージショットが重なった。
ーお!?
その二つの人影を見比べて、宗一の頭の中で何かが閃いた。
「おっことわりだよ!!」
週に何回か、潮家に集まって開く勉強会の後で、夕食を取っていた年少組メンバーと、都合が付いたK・Kの前で、藤丸がきっぱりと眉をつり上げて言い放った。
「こら、藤丸。宗一くんがあんなに丁寧に説明してくれてるのに、そんな言い方はないだろう。」
K・Kが藤丸をたしなめる。
「いや、オレも頼み事をするのに少し言葉がたらなすぎたかもしれん。」
宗二との二人暮らしには、少し大きいと思われる立派な座卓に置かれた、大皿のダッカルビに箸を伸ばして、宗一は藤丸に謝った。
「ふーん、でもその初音ミクってさ、そんな流行ってるのか?」
いつもの能天気な調子で尊が茶碗を片手に、どっさりキムチをご飯に載せる。
「オレは知ってますよ。ボーカロイドってやつでしょ?」
竜一がダッカルビの鶏肉とトッポギの所だけ、まとめて自分の皿にキープした。
「そうだ。シンガポールやLAでもコンサートをして成功してるんだ。もともと日本発だったのに、ディ○ニーが版権買い取りやがって、どんなに苦労したか・・・・」
*注:この話はフィクションです。実際の人物、団体、事件には一切関係ありません。
年少組にとっては何の興味も引かない、仕事の裏話を宗一が語り始め、兄ちゃんちょっと、と宗二が彼の話を止めた。
「でもさ、そんなに宗一が苦労してんなら、藤丸助けてやればいいのに。」
ニカっと、藤丸に尊が笑いかけて、はぁ・・と藤丸がため息をついた。
「あのな、お前分かってんのか?こいつはオレにこのワケの分かんない、緑の髪のキャラと一緒に歌って踊れっていってんだぞ?」
食事もろくに進まずに、藤丸は半分以上ご飯が残った茶碗を座卓に置いた。
「でもさ、パーティーみたいなもんじゃん!ほら、藤丸好きだろ!ハロウィーンパーティー!」
パーティーね、と苦笑したK・Kをよそに、
「あれは!みんなでやるからいいんだ!自分だけやって人に見せるもんじゃねぇ!」
と怒鳴りつける。
「あっ!そしたらオレも一緒にやってやるよ!いいだろ!宗一!」
と尊が話を畳み掛けてくる。
「ああ、参加してくれるなら歓迎だが・・・。」
と、意外な申し出に宗一がOKを出す。
ーやべぇ・・・はめられる・・・
と警戒警報が鳴った藤丸が、初音ミクのイメージショットを手に口を開いた。
「だけどよ、こういうのは人気商売だろ。オレの八王子区長時代の評判の悪さ、知ってんのかよ。」
ペッとその紙を床に投げつけ、オレだと人追い出すぜ、と付け加える。
「大ジョブだよー、藤丸。あのゲームの笑顔でいけば、絶対わかんないって!」
「?ゲーム?」
事情を知らない宗一に、尊が、あのな、、、とこしょこしょ説明をする。
*liner note 1:藤丸元八王子区長は『八王子区イメージ向上プロジェクト(案)』でシュミレーションゲームに出演済み。
しかし、そのデータは本人によって抹消されて、今では入手不可能、、、、のはず。
「おい赤銅!その記憶消せって何回言わせンだよ!」
と、尊を怒鳴りつけると
「ほぉ、もうデビュー済みか。」
とにやり、とした表情のあとで宗一のコメントが飛んだ。
「してねぇよ!!」
と全力で否定する藤丸に、ほらもう今日は帰るぞ、と彼に声をかけてK・Kが席を立つ。
「まぁ、宗一くん。明日もう一回詳しく話を聞いてもらう機会を作るといいじゃないか?」
年長者らしいアドバイスに、宗一は素直に感謝する。
「じゃあ、藤丸。申し訳ないが明日都庁でミーティングするから。」
と彼の肩にポン、と手を置き、宗一は時間は後で連絡する、と付け加える。
「ほら、藤丸もそんなにムキになるな。宗一くん、連絡待ってるぞ。」
とK・Kと藤丸は潮家を出て行った。
二人が出て行った後、
「ところで尊、そのゲームってなんなんだ?」
と宗一が聞く。
「あれさー、藤丸は嫌がってたんだけど、すっげーキャラ違いで可愛くッてさー」
と尊が自分がプレイしたケーキの場面なんかを話し始める。
ほお、さすがプロ、と宗一がメモを始めて
ー兄ちゃん・・・藤丸くんすっごい怒ると思うんだけど・・・
と宗二が心の中で突っ込みをしている脇で、竜一はダッカルビの鶏肉を全部平らげていた。
「で、何でこんなフルメンバー集まってんだよ。」
宗一招集のミーティングにいざ来てみると、病院の方で手が離せない茜を除いた新宿討伐メンバーがほとんど集まっていて、藤丸は思わず宗一を軽くひと睨みした。
「人望、だと思うぞ?」
にやりと言葉を返した宗一に、はぁ・・・と内輪の話になるはずが・・・と軽く後悔する。
白雪にくっついて天城屋まで来ているのは、普通に笑えない。
ホワイトボードに「みくぱ!in new Tokyo!」と書かれた下へ、出演メンバーとして藤丸と尊の名前が書かれる。
「おまっ!オレは出ていいなんて、一言も言ってねぇ!」
「これを話すための会議だろ。」
と、企んでんだか、はめてんだから分からない、冷静な様子で宗一は必要事項を全部書き終わると、みんなに見えるように宗二にホワイトボードを上げてもらっていた。
白雪が尊の側にとてとて歩いて来て、その後ろにいた珠も姿を現す。
「なにして、あそぶのー?」
と尊に話しかけてきて、
「ほら、この可愛い女の子と一緒に、歌って踊るんだよ。」
と初音ミクのイメージショットを白雪に渡した。
珠と一緒にその絵を覗き込んで、心が魅かれたのか、白雪が目をキラキラさせてうらやましそうに尊をみる。
「ん?白雪も出たいか?」
と尊が聞いてくるのに、嬉しそうにこくこく頷く。
「たまもー」
と彼女の手を引く白雪に、
「珠、飛んでもいいのか?」
と口を開いた。
「珠、それいいな。採用。」
とビシっと宗一が彼女を指差して、ホワイトボードの出演者に白雪と珠を書き加えた。
「おい宗一、こんだけメンバーいりゃ、オレはもういいだろ。」
とうんざりした様子で、頬づえをつき机を指で叩きながら、藤丸が口を挟んだ。
「何を言う。お前が一番ターゲット層が広いんだ。」
と、宗二にホワイトボードを下げてもらって、宗一がそれぞれの横に何か書き加えてもう一度上げた。
そこには
尊・・・どう見ても男
藤丸・・・一瞬美少女
白雪・・・・可愛いけど、ターゲット層限定
珠・・・可愛いけど、ターゲット層限定
とあり、
「尊は女子しか無理だし、白雪も珠も可愛いが、子どもと羽が生えててもOKな人しかアピールできん。でも、お前は性別隠せば男女イケルかもしれん。」
と真剣な様子でターゲット層を語る宗一の言葉に、 何で隠すんだよ! と藤丸の怒気を帯びた言葉がかぶり、その隣にいたK・Kは笑いをこらえきれずに、顔を下げて肩を震わせた。
「ぎーや!ぎーやも出るー?」
とてとてとて、と初音ミクのイメージショットを手に、白雪が天城屋によって行く。
「白雪様のお誘い、この天城屋たいっへん光栄ですが、今回は白雪様のデビューを全力でサポートさせて頂きますよ。」
と白雪だけにみせる、優しい笑顔で天城屋は答えた。
「なら天城屋、白雪のプロデュース、任せるぞ。」
と渡りに船、と宗一が天城屋を指名する。
「喜んでお引き受けいたしましょう。男か女か分からない機械オタクや、笑ってるしか能がないバカ下郎が、霞む演出を。」
その言葉に、たまもーたまもー、と白雪が答えて、ま、アンタもついでに面倒みてやりますかね、と天城屋が珠を見て答えた。
「よし、じゃあ天城屋女の子担当な。」
と宗一がホワイトボードの白雪と珠の横に「天城屋担当」と書き加え、尊の横に「笑顔」藤丸の方には「機械オタク」と付け加える。
「ちょっ!何メモってんだよ!」
とガタ、と頬づえを外して顔を上げた藤丸に、
「いや、キャラづけをな。」
と涼しい顔で宗一が答え、あ、藤丸には重要なのが抜けてたな、と「ツンデレ」を更に加えた。
「じゃ、藤丸。一緒にがんばろーな!」
と尊が彼の左手を握ってぶんぶん振ってきて、はぁーーーー、と深いため息を藤丸はつく。
ーオレに拒否権はないのかよ・・・・
完全に巻き込まれた藤丸に、まぁ、一回ぐらいつきあってやれ、とK・Kが声をかけ、宗一のミーティングは閉会した。
「えー、そんな面白い事あったのー。僕も見たかったなー。」
コンサートを開催する予定の会場で簡単な現場確認と簡易リハについてきた茜が、宗一に言った。
舞台の上では業者が音響や、ライトの位置を決めたり、出演する尊、藤丸、白雪、珠に3Dキャラと共演するのに、 立ってはいけないポジショニングのポイントなどを現場で教えていた。
「でもー、よくデコちゃんOKしてくれたよねー。」
一番こういうの、いやがりそうなのにー、と言う茜の声の背景に、様子を見に来た赤銅泉が、 いいぞ、尊!そこでバク転して瓦割りだ!、と訳の分からないコメントをしているのが聞こえてくる。
「いや、それは外堀を徐々に埋めてだな。」
と会場の椅子に座って、足をぶらぶらさせて宗一が答えた。
「あ、断れなくしちゃったの?」
「悪いとは思ったが、ピンと来てしまったからな。」
白雪様〜、お可愛らし〜!下郎と機械オタクは引っ込め〜!と、 衣装の感じを見に来た天城屋の応援と罵声が飛ぶのも聞こえてくる。
「でも毛玉さんセンスいーよねー。ちびちゃんと珠ちゃん、すっごい可愛くできてるー。」
「あれは、任せて正解だったな。」
白雪と珠は初音ミクに合わせたツインテールに、パニエで膨らませた可愛いミニスカートを着ている。
白雪は、白を基調として赤のアクセントカラーが入っている衣装、 珠は緑の瞳に合わせたアッシュグリーンと金のアクセントカラーの衣装で、 初音ミクのエメラルドグリーンの髪色とかぶらないようになっていた。
「デコちゃんとハッピーくんはどうすんの?」
「それがまだ、決まってないんだ。」
オレには天城屋みたいなセンスはないからな、と呟く宗一の言葉の裏で、 藤丸!ちゃんと様になってるんだから、恥を捨てろー!とK・Kの藤丸へのアドバイスを最後に、 リハは一段落ついたようだった。
「あーー、恥ずかった。」
舞台から降りてきて、髪を解きながら藤丸が言い、その後にいつも笑顔の尊、スカートをゆさゆさ揺らせて、 白雪、珠が宗一と茜の所にやってきた。
「珠ちゃん、かわいかったよ。」
宗二が彼女に声をかけるのに駆けより、
「うん。珠、今すっごい楽しい。」
とおっきな瞳を彼に向けて、にこっと口角を上げて笑う。
お疲れさまー、と茜が近づいてくる4人に声をかけ、宗一の正面の椅子にどさっと、藤丸が座った。
「おい、宗一。本っ当にこれっきりだかんな。」
彼の視線に合わせて、膝に腕を置き、少し上体を倒してその目を睨みつけてきた。
「協力感謝する。」
と宗一は素直に礼を言った。
藤丸、宗一にけんか売るなよー、と尊が彼の隣に腰掛けてきた。
「そうだ、今ミニちゃんと二人の格好どうしようかって話しててさ。」
「えっ?オレ何着ればいいの?」
と尊が身を乗り出したのとは反対に、藤丸はどーでもよさそうに茜と宗一から顔を背けた。
「まぁ、初音ミクって言ったらツインテールにミニスカ、ニーハイソックスだが・・・」
「えっ!ミニスカ!オレ初めてだよ!」
「・・・・・・」
尊の妙なコメントに藤丸は返す言葉もない。
「せっかくだから、一緒に着るか、藤丸!仮装みたいなもんだし!」
「着るわけねーだろ!ふざけんな!女装やりたきゃ一人でやれ!」
二人のやり取りを背後で聞いていたK・Kが、また苦笑が止まらずに吹き出しそうになっていた。
と、白雪がぴょこ、と現れて
「藤もおそろ、する?」
と背後から彼の髪を両手に持って、自分と同じようなツインテールを作った。
「ブッ」
さすがに笑いをこらえきれずに、宗一と茜が吹き出す。
「おい・・・白雪・・・・。」
その手を自分の髪から外して、ゆっくり背後にいる彼女に向き合った。
「あのな、ツインテールはお前みたいな、女の子がするから可愛いんだぞ。
男がやっても、気持ち悪いだけなんだかんな。」
ちゃんと白雪を説得しようとする藤丸の言葉に、宗一と茜は軽く笑いあった。
「しかし、髪はともかく服はそれだと地味だな・・・。」
宗一が二人の格好を見て、考え込むように言った。
「あっ!前にハッピーくんがやってた、白雪(ちび)ちゃんのヴェールを腰に巻くのは?」
茜が思いついて宗一に提案した。
「デコちゃんは青で、ハッピーくんが赤で、踊るとひらひらするし、いいんじゃない?」
ふむ、それだとカネもかからんし、いいかもな、と宗一が答える。
正面の舞台では、機材を片付け始めていて、そろそろ会場の使用時間が終わるころのようだった。
よし、じゃぁ本番に向けてがんばろー!と尊が椅子から立ち上がり、おー!と白雪と珠が声を合わせる。
ーほんっとうに、早く終わって欲しいぜ・・・
その唱和には参加せず、自分には理解できない盛り上がりを見せている尊と白雪、珠を藤丸は見て、 軽くため息をつくのだった。
“みくぱ!in new Tokyo”の当日、宗一はプロジェクト責任者として早朝から現場に詰めていた。
チケットは初音ミクの知名度もあって即完売、したのだが、その売り上げだけでは、収支とんとんなのは見えている。
なのでぎりぎりまで他にも利益を増やす方法がないか、限られた時間の中で考え、できそうな追加案を実行したのだ。
「あっ!ミニちゃーん、お疲れー!」
今日は観客として来た茜とK・Kが、宗一を見かけて声をかけてきた。
「ああ、茜。そうだ、ケネス元区長、礼を言わんとな。」
とK・Kに頭を下げる。
「在日米軍にこのコンサートの事、宣伝してもらって感謝する。」
彼の様子に、気にするな、とK・Kは言って、すぐに頭を上げさせた。
「俺ができるのはそのぐらいだからな。藤丸みたいに舞台に立つわけにはいかんし。」
その言葉に、ふっと鼻で笑って、宗一はまたK・Kに礼を言った。
「ミニちゃん、のっぽくんはどうしたの?一緒に来ようと思ったんだけど。」
「宗二は楽屋裏に興味があるらしくて、早めに家を出た。」
と、宗一は手元の段ボールからごそごそと、何かグッズのようなものを取り出している。
「ん?この顔、藤丸?」
画像加工が施されてはいるが、どう見ても、見慣れた顔がうちわに描かれていて、思わずK・Kはそれを手に取る。
「試しだ。初音ミクだとグッズが売れても、販売手数料しか入らないからな。うちの職員だったら原価コストだけで、あとは全部収益になる。」
いくつか段ボールを開けて宗一が作業をしていると、ガサ、と食い入るような目つきで天城屋がそれを見に、どこからか割り込んで来た。
「白雪様のグッズ・・・・・」
うっとりするような目で、10枚程白雪のうちわを手に取ると、おいくら万円でございますか?と宗一に聞いてくる。
「天城屋、買い占めるなよ。」
宗一が天城屋に釘を刺している背後には、赤銅泉がその中身を見下ろしていた。
「尊のもあるのか?」
と財布を取り出しながら聞いてくる。
頷く宗一に、K・Kはじゃぁ、俺は藤丸のを、とカードを取り出し、茜は珠ちゃんにしよーかな、と胸ポケットのお札を出す。
ちゃりんちゃりーん、と宗一の意図通りに4人の大人たちの財布から、東京都への収入が転がり込んで来たのであった。
楽屋裏からつながる舞台袖で、コンサートを見ている宗二の所に、やっと細かい作業が一段落ついて、宗一がやってきた。
「兄ちゃん、すごい熱気だね。」
会場から舞台袖に流れ込んでくる、大音量のコンサートの音と、観客の歓声に宗二は圧倒されている。
「宗二、2年前はこんなコンサート、毎日東京でやってたんだぜ。」
その横に、どさっとあぐらをかいて、宗一は満足そうに自分のプロジェクトの結果を見守る。
「すげーな、兄ちゃん。」
と素直に兄に尊敬の言葉を発する宗二の頭を、わしわし、と小さい手で撫でる。
「お前も今の平和な東京で、一生懸命、好きに生きろよ。」
今日はみっくミクのために、集まってくれてありがとー!!
と主役の声が聞こえてくる。
うん、と嬉しそうに弟が返事をして、兄弟は舞台袖からずっとコンサートを見つめるのであった。
「で、オレは何で今日呼ばれてるんだよ。」
無事に「みくぱ!」も終わり、もう関係ないとプロジェクトに近づかないようにしていた藤丸が宗一から呼び出されて、不機嫌を隠さずに言ってきた。
「ちょっと無視できない結果がでてな。」
宗一が手元のノートPCからエクセルファイルを呼び出し、正面のスクリーンにその画面をプロジェクターで写した。
そのミーティングには、都合がついた関係者の赤銅泉とK・K、なぜか茜に、宗一のサポート宗二がいるが他の出演者は呼ばれていなかった。
「これは、試販売したコンサートグッズの売上高と、販売数のグラフだ。」
宗一が何を言いたいのか分からないので、取りあえず画面が見やすい場所に席を取る藤丸。
「下に名前があるが、初音ミクが売り上げトップだ。次が大きく離れて藤丸、白雪、珠、尊。。。」
ー何でそんなのオレに断らないで、売ってんだよ・・・
突っ込みを入れる前に、宗一の言葉が続いた。
「これを、東京都の収益で見るとびっくりする結果が出た。」
カチャ、と別のシートに画面を切り替えて宗一が説明を続けた。
表示された棒グラフは、初音ミク、と藤丸の数値がほぼ同じで、その後に、白雪、珠、尊と続いていた。
「要するに、東京都的には、お前は初音ミク並みにコンサートで稼げる貴重な人材だってことだ。」
ビシっと言い放った宗一に、色々突っ込みどころがありすぎて、すぐに藤丸には言葉が出て来ない。
「あ、あのなぁ。。。だからってオレにどーしろと・・・。」
どんな要求をされるのか、予想もつかず、でも絶対に自分がやりたくない事を押し付けてくる気配がして、藤丸は自分が思いつく限りの防御反応をした。
K・Kの方に助けの目を求めてみるが、取りあえず話を聞け、という合図しか送られて来ない。
「藤丸、東京都のために外貨を稼げ!」
ばん、と宗一が言い放った。
「はぁ!?」
「取りあえず、お前は東京都お抱えのエンタメ要員だ!次の目標は香港でふじぱ☆開催だ!」
香港なら、どら○もんも定着してるし、東京クール!の文化輸出に最適だ、とさくさく変な方向へ宗一が話を進めててきて、このままではなし崩し的にアイドルをやらされそうになり、必死の抵抗を試みる。
「宗一!そんなこっぱずかしい事、オレができるわけねーだろ!ふざけんなー!」
「あっ!藤丸!」
K・Kが声をかける前に、ぴゅーっ、とミーティングルームを出て行く藤丸。
「ちょっと行って来る。」
とK・Kは藤丸を追って行き、宗一がやっぱ香港はいきなり過ぎたかな、と宗二に呟く。
「ってか、兄ちゃん。藤丸くん、多分アイドルはキャラ違いだよ。」
そうか?じゃぁ沖ノ鳥島辺りから始めるか、と宗一がまたポイント外れの返事をする。
liner note 2:沖ノ鳥島は日本最南端の無人島。恥ずかしがりや(笑)の藤丸のアイドル練習場所に最適か!?ちなみに住所は東京都☆
「まぁ、デコちゃんは他人目から見ても、一番似合ってたけどねー。」
と茜は宗一のPCから、この前のみくぱ!のコンサート画像で彼の部分を映し出して、コメントした。
だろ!だから受けたんだよ、と宗一が主張する。
「しかし、あの様子じゃ本人は全然乗り気じゃないな。」
と泉が呟いた。
「そうだな。」
と宗一は一応は納得したが、しかし、家電の修理からお茶の間のエンタメまで提供できるアイドルってのも捨てがたい・・・と諦めきれずに、K・Kの帰りを待つことにしたのだった。
「藤丸、宗一くんも悪気があって言ってるわけじゃないんだから。」
ミーティングルームから更に建物を出て、都庁舎の外のベンチの上で三角座りをしている藤丸に、K・Kは話しかけた。
「悪気があって、たまるかよ。」
すぐに答えを返してきた藤丸に、K・Kは柔らかい笑顔を向ける。
「まぁ、こればっかりは代わりにやってやる、って訳にもいかないしな。」
「気持ちの悪い事言うなよ。」
K・Kの言葉にいつもの毒舌が返ってきて、ふっと笑って少し安心する。
「藤丸。本当に嫌だったら、いつ断ってもいいんだぞ。」
彼の言葉が聞こえているのか、藤丸はしばらく両腕に顔を埋めて、何も答えなかった。
その様子を少し離れた所でK・Kは見守る。
「少し、ほっといてくれよ。ケン。」
「分かった。」
と言って、身動きしない藤丸からK・Kは離れ、都庁舎に戻って行った。
ーくっそー、ちょっとオレが譲ったらどこまでも要求してきやがってー!
一回ぐらい、と引き受けたらなんだ都庁エンタメ要員て、と怒りどころかあきれてため息しか出て来ない。
はぁ・・・、あいつらオレを何だと思ってるんだー!!
尊に出会ってから、キャラ違いの事ばかり続きすぎて、最初は気分爽快だったが、最近はどーも周りの悪ノリに巻き込まれているだけの気がしないでもない。
次は宗一の計画に乗せられて香港デビューか!藤丸!
東京都の今後の発展は(ちょっとは)お前の活躍にかかっている!
明るい東京の未来のために、藤丸、お前の全力を尽くすんだ!
大学卒業から失敗作適合者に職を変え、現在都庁の企画推進部に籍を置き、初めて単独で指揮を取る事になった自分発案のプロジェクトが、目の前で頓挫の危機に陥っているのだ。
ー予算がネックだな。
小規模のプロジェクト推進の際に発生する、お決まりの理由だ。
最初はうまくいっていた。
版権会社からの使用許可は以外とすんなりOKが出て、必要機材も順調にそろい、会場場所も押さえ、広告やチケット販売のルートも目処がついている。
しかし、業者からの見積りと、都からせしめた予算の収支は現時点でもぎりぎりで、これ以上オプションを付けたくても資金はなかった。
しかし、このままでは本当にありきたりのものに、というかありきたりすぎて失敗の可能性も・・・。
「うーむ・・・・」
気分転換に、自分のオフィスのデスクから都庁内にある噴水のある広場に場所を移したのだが、全く気分が転換できずに、石のベンチに腰掛け、いつも耳に挿している簪を手に取り、脇に置いてある企画ファイルをとんとんとん、と叩く。
せっかく都民向けに、久々の都行政から提供するエンターテイメントなのだから、今までにない新鮮味が是非とも必要だ。
もちろんその裏には、都民の方々に気持ちよくオカネを使ってもらい、カネ、モノの流れが止まっている東京の経済状態の活性化、という意図もあるのだが・・・。
簪でファイルの表紙をぱらっと開けて、今回の主役のイメージショットの上部にさくっと刺して取り出した。
そこには、エメラルドグリーンの長いツインテールで、ブラックのニーハイソックスが良く似合う、目の大きな、スタイルの良いつり目気味の女の子が写っている。
ー一人、というのが少し寂しいんだな。
そのイメージショットを、ぶらぶらと、目の前で手にした簪でそれを揺らす。
と、
「おー、宗一。」
噴水の向こうから、前に自分が渡した本を開きながら、藤丸が彼を見つけてやって来た。
「ちょっとさー、この本で分かんないとこがあるんだけどよ。」
その本の箇所に指を差し入れて、歩いてくるのと、目の前で自分がぶらぶらさせているイメージショットが重なった。
ーお!?
その二つの人影を見比べて、宗一の頭の中で何かが閃いた。
「おっことわりだよ!!」
週に何回か、潮家に集まって開く勉強会の後で、夕食を取っていた年少組メンバーと、都合が付いたK・Kの前で、藤丸がきっぱりと眉をつり上げて言い放った。
「こら、藤丸。宗一くんがあんなに丁寧に説明してくれてるのに、そんな言い方はないだろう。」
K・Kが藤丸をたしなめる。
「いや、オレも頼み事をするのに少し言葉がたらなすぎたかもしれん。」
宗二との二人暮らしには、少し大きいと思われる立派な座卓に置かれた、大皿のダッカルビに箸を伸ばして、宗一は藤丸に謝った。
「ふーん、でもその初音ミクってさ、そんな流行ってるのか?」
いつもの能天気な調子で尊が茶碗を片手に、どっさりキムチをご飯に載せる。
「オレは知ってますよ。ボーカロイドってやつでしょ?」
竜一がダッカルビの鶏肉とトッポギの所だけ、まとめて自分の皿にキープした。
「そうだ。シンガポールやLAでもコンサートをして成功してるんだ。もともと日本発だったのに、ディ○ニーが版権買い取りやがって、どんなに苦労したか・・・・」
*注:この話はフィクションです。実際の人物、団体、事件には一切関係ありません。
年少組にとっては何の興味も引かない、仕事の裏話を宗一が語り始め、兄ちゃんちょっと、と宗二が彼の話を止めた。
「でもさ、そんなに宗一が苦労してんなら、藤丸助けてやればいいのに。」
ニカっと、藤丸に尊が笑いかけて、はぁ・・と藤丸がため息をついた。
「あのな、お前分かってんのか?こいつはオレにこのワケの分かんない、緑の髪のキャラと一緒に歌って踊れっていってんだぞ?」
食事もろくに進まずに、藤丸は半分以上ご飯が残った茶碗を座卓に置いた。
「でもさ、パーティーみたいなもんじゃん!ほら、藤丸好きだろ!ハロウィーンパーティー!」
パーティーね、と苦笑したK・Kをよそに、
「あれは!みんなでやるからいいんだ!自分だけやって人に見せるもんじゃねぇ!」
と怒鳴りつける。
「あっ!そしたらオレも一緒にやってやるよ!いいだろ!宗一!」
と尊が話を畳み掛けてくる。
「ああ、参加してくれるなら歓迎だが・・・。」
と、意外な申し出に宗一がOKを出す。
ーやべぇ・・・はめられる・・・
と警戒警報が鳴った藤丸が、初音ミクのイメージショットを手に口を開いた。
「だけどよ、こういうのは人気商売だろ。オレの八王子区長時代の評判の悪さ、知ってんのかよ。」
ペッとその紙を床に投げつけ、オレだと人追い出すぜ、と付け加える。
「大ジョブだよー、藤丸。あのゲームの笑顔でいけば、絶対わかんないって!」
「?ゲーム?」
事情を知らない宗一に、尊が、あのな、、、とこしょこしょ説明をする。
*liner note 1:藤丸元八王子区長は『八王子区イメージ向上プロジェクト(案)』でシュミレーションゲームに出演済み。
しかし、そのデータは本人によって抹消されて、今では入手不可能、、、、のはず。
「おい赤銅!その記憶消せって何回言わせンだよ!」
と、尊を怒鳴りつけると
「ほぉ、もうデビュー済みか。」
とにやり、とした表情のあとで宗一のコメントが飛んだ。
「してねぇよ!!」
と全力で否定する藤丸に、ほらもう今日は帰るぞ、と彼に声をかけてK・Kが席を立つ。
「まぁ、宗一くん。明日もう一回詳しく話を聞いてもらう機会を作るといいじゃないか?」
年長者らしいアドバイスに、宗一は素直に感謝する。
「じゃあ、藤丸。申し訳ないが明日都庁でミーティングするから。」
と彼の肩にポン、と手を置き、宗一は時間は後で連絡する、と付け加える。
「ほら、藤丸もそんなにムキになるな。宗一くん、連絡待ってるぞ。」
とK・Kと藤丸は潮家を出て行った。
二人が出て行った後、
「ところで尊、そのゲームってなんなんだ?」
と宗一が聞く。
「あれさー、藤丸は嫌がってたんだけど、すっげーキャラ違いで可愛くッてさー」
と尊が自分がプレイしたケーキの場面なんかを話し始める。
ほお、さすがプロ、と宗一がメモを始めて
ー兄ちゃん・・・藤丸くんすっごい怒ると思うんだけど・・・
と宗二が心の中で突っ込みをしている脇で、竜一はダッカルビの鶏肉を全部平らげていた。
「で、何でこんなフルメンバー集まってんだよ。」
宗一招集のミーティングにいざ来てみると、病院の方で手が離せない茜を除いた新宿討伐メンバーがほとんど集まっていて、藤丸は思わず宗一を軽くひと睨みした。
「人望、だと思うぞ?」
にやりと言葉を返した宗一に、はぁ・・・と内輪の話になるはずが・・・と軽く後悔する。
白雪にくっついて天城屋まで来ているのは、普通に笑えない。
ホワイトボードに「みくぱ!in new Tokyo!」と書かれた下へ、出演メンバーとして藤丸と尊の名前が書かれる。
「おまっ!オレは出ていいなんて、一言も言ってねぇ!」
「これを話すための会議だろ。」
と、企んでんだか、はめてんだから分からない、冷静な様子で宗一は必要事項を全部書き終わると、みんなに見えるように宗二にホワイトボードを上げてもらっていた。
白雪が尊の側にとてとて歩いて来て、その後ろにいた珠も姿を現す。
「なにして、あそぶのー?」
と尊に話しかけてきて、
「ほら、この可愛い女の子と一緒に、歌って踊るんだよ。」
と初音ミクのイメージショットを白雪に渡した。
珠と一緒にその絵を覗き込んで、心が魅かれたのか、白雪が目をキラキラさせてうらやましそうに尊をみる。
「ん?白雪も出たいか?」
と尊が聞いてくるのに、嬉しそうにこくこく頷く。
「たまもー」
と彼女の手を引く白雪に、
「珠、飛んでもいいのか?」
と口を開いた。
「珠、それいいな。採用。」
とビシっと宗一が彼女を指差して、ホワイトボードの出演者に白雪と珠を書き加えた。
「おい宗一、こんだけメンバーいりゃ、オレはもういいだろ。」
とうんざりした様子で、頬づえをつき机を指で叩きながら、藤丸が口を挟んだ。
「何を言う。お前が一番ターゲット層が広いんだ。」
と、宗二にホワイトボードを下げてもらって、宗一がそれぞれの横に何か書き加えてもう一度上げた。
そこには
尊・・・どう見ても男
藤丸・・・一瞬美少女
白雪・・・・可愛いけど、ターゲット層限定
珠・・・可愛いけど、ターゲット層限定
とあり、
「尊は女子しか無理だし、白雪も珠も可愛いが、子どもと羽が生えててもOKな人しかアピールできん。でも、お前は性別隠せば男女イケルかもしれん。」
と真剣な様子でターゲット層を語る宗一の言葉に、 何で隠すんだよ! と藤丸の怒気を帯びた言葉がかぶり、その隣にいたK・Kは笑いをこらえきれずに、顔を下げて肩を震わせた。
「ぎーや!ぎーやも出るー?」
とてとてとて、と初音ミクのイメージショットを手に、白雪が天城屋によって行く。
「白雪様のお誘い、この天城屋たいっへん光栄ですが、今回は白雪様のデビューを全力でサポートさせて頂きますよ。」
と白雪だけにみせる、優しい笑顔で天城屋は答えた。
「なら天城屋、白雪のプロデュース、任せるぞ。」
と渡りに船、と宗一が天城屋を指名する。
「喜んでお引き受けいたしましょう。男か女か分からない機械オタクや、笑ってるしか能がないバカ下郎が、霞む演出を。」
その言葉に、たまもーたまもー、と白雪が答えて、ま、アンタもついでに面倒みてやりますかね、と天城屋が珠を見て答えた。
「よし、じゃあ天城屋女の子担当な。」
と宗一がホワイトボードの白雪と珠の横に「天城屋担当」と書き加え、尊の横に「笑顔」藤丸の方には「機械オタク」と付け加える。
「ちょっ!何メモってんだよ!」
とガタ、と頬づえを外して顔を上げた藤丸に、
「いや、キャラづけをな。」
と涼しい顔で宗一が答え、あ、藤丸には重要なのが抜けてたな、と「ツンデレ」を更に加えた。
「じゃ、藤丸。一緒にがんばろーな!」
と尊が彼の左手を握ってぶんぶん振ってきて、はぁーーーー、と深いため息を藤丸はつく。
ーオレに拒否権はないのかよ・・・・
完全に巻き込まれた藤丸に、まぁ、一回ぐらいつきあってやれ、とK・Kが声をかけ、宗一のミーティングは閉会した。
「えー、そんな面白い事あったのー。僕も見たかったなー。」
コンサートを開催する予定の会場で簡単な現場確認と簡易リハについてきた茜が、宗一に言った。
舞台の上では業者が音響や、ライトの位置を決めたり、出演する尊、藤丸、白雪、珠に3Dキャラと共演するのに、 立ってはいけないポジショニングのポイントなどを現場で教えていた。
「でもー、よくデコちゃんOKしてくれたよねー。」
一番こういうの、いやがりそうなのにー、と言う茜の声の背景に、様子を見に来た赤銅泉が、 いいぞ、尊!そこでバク転して瓦割りだ!、と訳の分からないコメントをしているのが聞こえてくる。
「いや、それは外堀を徐々に埋めてだな。」
と会場の椅子に座って、足をぶらぶらさせて宗一が答えた。
「あ、断れなくしちゃったの?」
「悪いとは思ったが、ピンと来てしまったからな。」
白雪様〜、お可愛らし〜!下郎と機械オタクは引っ込め〜!と、 衣装の感じを見に来た天城屋の応援と罵声が飛ぶのも聞こえてくる。
「でも毛玉さんセンスいーよねー。ちびちゃんと珠ちゃん、すっごい可愛くできてるー。」
「あれは、任せて正解だったな。」
白雪と珠は初音ミクに合わせたツインテールに、パニエで膨らませた可愛いミニスカートを着ている。
白雪は、白を基調として赤のアクセントカラーが入っている衣装、 珠は緑の瞳に合わせたアッシュグリーンと金のアクセントカラーの衣装で、 初音ミクのエメラルドグリーンの髪色とかぶらないようになっていた。
「デコちゃんとハッピーくんはどうすんの?」
「それがまだ、決まってないんだ。」
オレには天城屋みたいなセンスはないからな、と呟く宗一の言葉の裏で、 藤丸!ちゃんと様になってるんだから、恥を捨てろー!とK・Kの藤丸へのアドバイスを最後に、 リハは一段落ついたようだった。
「あーー、恥ずかった。」
舞台から降りてきて、髪を解きながら藤丸が言い、その後にいつも笑顔の尊、スカートをゆさゆさ揺らせて、 白雪、珠が宗一と茜の所にやってきた。
「珠ちゃん、かわいかったよ。」
宗二が彼女に声をかけるのに駆けより、
「うん。珠、今すっごい楽しい。」
とおっきな瞳を彼に向けて、にこっと口角を上げて笑う。
お疲れさまー、と茜が近づいてくる4人に声をかけ、宗一の正面の椅子にどさっと、藤丸が座った。
「おい、宗一。本っ当にこれっきりだかんな。」
彼の視線に合わせて、膝に腕を置き、少し上体を倒してその目を睨みつけてきた。
「協力感謝する。」
と宗一は素直に礼を言った。
藤丸、宗一にけんか売るなよー、と尊が彼の隣に腰掛けてきた。
「そうだ、今ミニちゃんと二人の格好どうしようかって話しててさ。」
「えっ?オレ何着ればいいの?」
と尊が身を乗り出したのとは反対に、藤丸はどーでもよさそうに茜と宗一から顔を背けた。
「まぁ、初音ミクって言ったらツインテールにミニスカ、ニーハイソックスだが・・・」
「えっ!ミニスカ!オレ初めてだよ!」
「・・・・・・」
尊の妙なコメントに藤丸は返す言葉もない。
「せっかくだから、一緒に着るか、藤丸!仮装みたいなもんだし!」
「着るわけねーだろ!ふざけんな!女装やりたきゃ一人でやれ!」
二人のやり取りを背後で聞いていたK・Kが、また苦笑が止まらずに吹き出しそうになっていた。
と、白雪がぴょこ、と現れて
「藤もおそろ、する?」
と背後から彼の髪を両手に持って、自分と同じようなツインテールを作った。
「ブッ」
さすがに笑いをこらえきれずに、宗一と茜が吹き出す。
「おい・・・白雪・・・・。」
その手を自分の髪から外して、ゆっくり背後にいる彼女に向き合った。
「あのな、ツインテールはお前みたいな、女の子がするから可愛いんだぞ。
男がやっても、気持ち悪いだけなんだかんな。」
ちゃんと白雪を説得しようとする藤丸の言葉に、宗一と茜は軽く笑いあった。
「しかし、髪はともかく服はそれだと地味だな・・・。」
宗一が二人の格好を見て、考え込むように言った。
「あっ!前にハッピーくんがやってた、白雪(ちび)ちゃんのヴェールを腰に巻くのは?」
茜が思いついて宗一に提案した。
「デコちゃんは青で、ハッピーくんが赤で、踊るとひらひらするし、いいんじゃない?」
ふむ、それだとカネもかからんし、いいかもな、と宗一が答える。
正面の舞台では、機材を片付け始めていて、そろそろ会場の使用時間が終わるころのようだった。
よし、じゃぁ本番に向けてがんばろー!と尊が椅子から立ち上がり、おー!と白雪と珠が声を合わせる。
ーほんっとうに、早く終わって欲しいぜ・・・
その唱和には参加せず、自分には理解できない盛り上がりを見せている尊と白雪、珠を藤丸は見て、 軽くため息をつくのだった。
“みくぱ!in new Tokyo”の当日、宗一はプロジェクト責任者として早朝から現場に詰めていた。
チケットは初音ミクの知名度もあって即完売、したのだが、その売り上げだけでは、収支とんとんなのは見えている。
なのでぎりぎりまで他にも利益を増やす方法がないか、限られた時間の中で考え、できそうな追加案を実行したのだ。
「あっ!ミニちゃーん、お疲れー!」
今日は観客として来た茜とK・Kが、宗一を見かけて声をかけてきた。
「ああ、茜。そうだ、ケネス元区長、礼を言わんとな。」
とK・Kに頭を下げる。
「在日米軍にこのコンサートの事、宣伝してもらって感謝する。」
彼の様子に、気にするな、とK・Kは言って、すぐに頭を上げさせた。
「俺ができるのはそのぐらいだからな。藤丸みたいに舞台に立つわけにはいかんし。」
その言葉に、ふっと鼻で笑って、宗一はまたK・Kに礼を言った。
「ミニちゃん、のっぽくんはどうしたの?一緒に来ようと思ったんだけど。」
「宗二は楽屋裏に興味があるらしくて、早めに家を出た。」
と、宗一は手元の段ボールからごそごそと、何かグッズのようなものを取り出している。
「ん?この顔、藤丸?」
画像加工が施されてはいるが、どう見ても、見慣れた顔がうちわに描かれていて、思わずK・Kはそれを手に取る。
「試しだ。初音ミクだとグッズが売れても、販売手数料しか入らないからな。うちの職員だったら原価コストだけで、あとは全部収益になる。」
いくつか段ボールを開けて宗一が作業をしていると、ガサ、と食い入るような目つきで天城屋がそれを見に、どこからか割り込んで来た。
「白雪様のグッズ・・・・・」
うっとりするような目で、10枚程白雪のうちわを手に取ると、おいくら万円でございますか?と宗一に聞いてくる。
「天城屋、買い占めるなよ。」
宗一が天城屋に釘を刺している背後には、赤銅泉がその中身を見下ろしていた。
「尊のもあるのか?」
と財布を取り出しながら聞いてくる。
頷く宗一に、K・Kはじゃぁ、俺は藤丸のを、とカードを取り出し、茜は珠ちゃんにしよーかな、と胸ポケットのお札を出す。
ちゃりんちゃりーん、と宗一の意図通りに4人の大人たちの財布から、東京都への収入が転がり込んで来たのであった。
楽屋裏からつながる舞台袖で、コンサートを見ている宗二の所に、やっと細かい作業が一段落ついて、宗一がやってきた。
「兄ちゃん、すごい熱気だね。」
会場から舞台袖に流れ込んでくる、大音量のコンサートの音と、観客の歓声に宗二は圧倒されている。
「宗二、2年前はこんなコンサート、毎日東京でやってたんだぜ。」
その横に、どさっとあぐらをかいて、宗一は満足そうに自分のプロジェクトの結果を見守る。
「すげーな、兄ちゃん。」
と素直に兄に尊敬の言葉を発する宗二の頭を、わしわし、と小さい手で撫でる。
「お前も今の平和な東京で、一生懸命、好きに生きろよ。」
今日はみっくミクのために、集まってくれてありがとー!!
と主役の声が聞こえてくる。
うん、と嬉しそうに弟が返事をして、兄弟は舞台袖からずっとコンサートを見つめるのであった。
「で、オレは何で今日呼ばれてるんだよ。」
無事に「みくぱ!」も終わり、もう関係ないとプロジェクトに近づかないようにしていた藤丸が宗一から呼び出されて、不機嫌を隠さずに言ってきた。
「ちょっと無視できない結果がでてな。」
宗一が手元のノートPCからエクセルファイルを呼び出し、正面のスクリーンにその画面をプロジェクターで写した。
そのミーティングには、都合がついた関係者の赤銅泉とK・K、なぜか茜に、宗一のサポート宗二がいるが他の出演者は呼ばれていなかった。
「これは、試販売したコンサートグッズの売上高と、販売数のグラフだ。」
宗一が何を言いたいのか分からないので、取りあえず画面が見やすい場所に席を取る藤丸。
「下に名前があるが、初音ミクが売り上げトップだ。次が大きく離れて藤丸、白雪、珠、尊。。。」
ー何でそんなのオレに断らないで、売ってんだよ・・・
突っ込みを入れる前に、宗一の言葉が続いた。
「これを、東京都の収益で見るとびっくりする結果が出た。」
カチャ、と別のシートに画面を切り替えて宗一が説明を続けた。
表示された棒グラフは、初音ミク、と藤丸の数値がほぼ同じで、その後に、白雪、珠、尊と続いていた。
「要するに、東京都的には、お前は初音ミク並みにコンサートで稼げる貴重な人材だってことだ。」
ビシっと言い放った宗一に、色々突っ込みどころがありすぎて、すぐに藤丸には言葉が出て来ない。
「あ、あのなぁ。。。だからってオレにどーしろと・・・。」
どんな要求をされるのか、予想もつかず、でも絶対に自分がやりたくない事を押し付けてくる気配がして、藤丸は自分が思いつく限りの防御反応をした。
K・Kの方に助けの目を求めてみるが、取りあえず話を聞け、という合図しか送られて来ない。
「藤丸、東京都のために外貨を稼げ!」
ばん、と宗一が言い放った。
「はぁ!?」
「取りあえず、お前は東京都お抱えのエンタメ要員だ!次の目標は香港でふじぱ☆開催だ!」
香港なら、どら○もんも定着してるし、東京クール!の文化輸出に最適だ、とさくさく変な方向へ宗一が話を進めててきて、このままではなし崩し的にアイドルをやらされそうになり、必死の抵抗を試みる。
「宗一!そんなこっぱずかしい事、オレができるわけねーだろ!ふざけんなー!」
「あっ!藤丸!」
K・Kが声をかける前に、ぴゅーっ、とミーティングルームを出て行く藤丸。
「ちょっと行って来る。」
とK・Kは藤丸を追って行き、宗一がやっぱ香港はいきなり過ぎたかな、と宗二に呟く。
「ってか、兄ちゃん。藤丸くん、多分アイドルはキャラ違いだよ。」
そうか?じゃぁ沖ノ鳥島辺りから始めるか、と宗一がまたポイント外れの返事をする。
liner note 2:沖ノ鳥島は日本最南端の無人島。恥ずかしがりや(笑)の藤丸のアイドル練習場所に最適か!?ちなみに住所は東京都☆
「まぁ、デコちゃんは他人目から見ても、一番似合ってたけどねー。」
と茜は宗一のPCから、この前のみくぱ!のコンサート画像で彼の部分を映し出して、コメントした。
だろ!だから受けたんだよ、と宗一が主張する。
「しかし、あの様子じゃ本人は全然乗り気じゃないな。」
と泉が呟いた。
「そうだな。」
と宗一は一応は納得したが、しかし、家電の修理からお茶の間のエンタメまで提供できるアイドルってのも捨てがたい・・・と諦めきれずに、K・Kの帰りを待つことにしたのだった。
「藤丸、宗一くんも悪気があって言ってるわけじゃないんだから。」
ミーティングルームから更に建物を出て、都庁舎の外のベンチの上で三角座りをしている藤丸に、K・Kは話しかけた。
「悪気があって、たまるかよ。」
すぐに答えを返してきた藤丸に、K・Kは柔らかい笑顔を向ける。
「まぁ、こればっかりは代わりにやってやる、って訳にもいかないしな。」
「気持ちの悪い事言うなよ。」
K・Kの言葉にいつもの毒舌が返ってきて、ふっと笑って少し安心する。
「藤丸。本当に嫌だったら、いつ断ってもいいんだぞ。」
彼の言葉が聞こえているのか、藤丸はしばらく両腕に顔を埋めて、何も答えなかった。
その様子を少し離れた所でK・Kは見守る。
「少し、ほっといてくれよ。ケン。」
「分かった。」
と言って、身動きしない藤丸からK・Kは離れ、都庁舎に戻って行った。
ーくっそー、ちょっとオレが譲ったらどこまでも要求してきやがってー!
一回ぐらい、と引き受けたらなんだ都庁エンタメ要員て、と怒りどころかあきれてため息しか出て来ない。
はぁ・・・、あいつらオレを何だと思ってるんだー!!
尊に出会ってから、キャラ違いの事ばかり続きすぎて、最初は気分爽快だったが、最近はどーも周りの悪ノリに巻き込まれているだけの気がしないでもない。
次は宗一の計画に乗せられて香港デビューか!藤丸!
東京都の今後の発展は(ちょっとは)お前の活躍にかかっている!
明るい東京の未来のために、藤丸、お前の全力を尽くすんだ!