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7th August, 2014Short Story/
Fujimaru, the New Hachiohji Head of a ward, has stationed !/藤丸新八王子区長、着任!をup
1st August, 2014
Five Years After the Battle in Shinjuku 3-4をup
4th July, 2014 サイト開設
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その金髪の外人が隣のベッドにやってきたのは、藤丸がそこに売られてから大分経った頃だった。
大人、はともかく外国人が来るのは珍しい。
まだ本適合前の過程のようで、ベッドの間のカーテンがシャッとすぐに看護士に閉められる。
いつもと少し違う隣人に、藤丸は少し興味を持った。
白い柱と白衣の人々。所々コンクリート打ちっぱなしの建物の階下から絶え間なく漏れ出て来る人の苦痛の声。
最初にここに閉じ込められた時、藤丸はこんな所は自分の居場所じゃないと、何度か抜け出そうと試みた。
オカネを受け取っていたお母さんも、きっとそのうち自分の事が気になって手を差し伸べてくれると思っていたのだ。
でも、体力が回復する度に負荷が増す実験、自分の反応を記録するだけでその他は何も反応しない大人、 そして自分の様子を満足げに見る黒い女ー・・・・・・。
少しずつ、少しずつ藤丸の心は外部からの刺激をシャットダウンして、自分が傷つかないように、 自分に無関心な人間には感情を見せないようになっていった。
そんな日々に慣れていった時、いつもと少し違うイベントが今回起こっただけだった。
仕切りのカーテンは閉じられたままで、時節うめき声や、泣き声が聞こえてきたが そんなのは今まで隣に来た囚人で慣れっこだった。
ーこいつ持つのかな。
心配はしていないが、興味はあった。
それも、日々のつらい実験スケジュールの合間の気晴らし程度だったが・・・
ある日シャッと間のカーテンを開けられて、藤丸はぴくっとした。
隣には以前見た金髪の男がいた。
看護士は点滴がうまく入っているか確認しただけでさっさと帰って行く。
「Hi, pretty boy ...」
その男は藤丸がいる事が分かったらしく、声をかけてきた。
まだ身体がつらいようで、息が安定していない。
"Oh, your are only a kid, ......isn’t this place hard to live for you, is it ?...... I’ve experienced the toughest time in my life."
「?」
男の顔を凝視している幼い紅い目が不思議そうに見る。
"Ah...here is in Japan...."
青い目が藤丸をじっと見た。
一呼吸して、
「ケンだ。I’m Ken, and you?」
青い目が名乗って促すように、藤丸を見た。
「藤丸。」
「Fuji?」
「フ、ジ、マ、ル。」
「Fujimaru, yoroshiku.」
左手を差し出してきたので、思わず両手を差し出した。
その手を掴み、ケンはにこっと笑って藤丸を見る。
それが最初の出会いだった。
「お前、また泣くのか?」
会って三ヶ月後、いつもの実験が終わって、ベッドに潜り込み布団を頭からかぶったケンに 藤丸が不機嫌そうに言った。
「痛いんだ。ほっといてくれ。」
布団も上げずにケンは泣き声で返してきた。
「お前ぐずぐず、うるせーんだよ。ゆっくり寝れねーし。」
ううっ、と既に泣き声が聞こえてきて藤丸はうっとーしー、とケンの寝ている布団の辺りをじろっと見た。
「だいたいさー、泣いたってなんもないんだぜ。ここは。」
藤丸は自分が直近でつらくて涙が出た事いつだっけ、と思い出していた。
一番最近泣いたのは、6ヶ月前だったか、実験がひどすぎて動けなくなって、栄養を入れる点滴を刺す血管を10回ぐらい間違えやがって、最後にそのへたくそな看護士の針が変な所に刺さって、その後あいつは大事な成功例に何するんだって、上長に殴られてたっけ。
あんときはさすがに痛くて、一粒くらい涙でたな、と反芻した。
「藤丸、・・・・・・お前強いな。」
布団の奥から、ケンが言って来る。
「そーだよ!お前なんかより強いんだよ!」
ボスッ、とケンの布団を叩いて、自分のベッドに潜り込む。
ー色々ありすぎて、もう泣けるネタなんかねーんだよ。
お前、声上げて泣いたらぶっ殺すからな、と言って藤丸は目を閉じ、誰にも邪魔されない柔らかな眠りの時間に落ちていった。
ここ2、3日藤丸が実験から帰って来ない。
隣の温もりの冷めきったベッドを見てケンは、最近できた小さい同士の安否を心配していた。
日本の10月はケンが知っている米国のよりもかなり気温が高く、太陽の光も強い。
室内の空調は行き届いているが、時に調子が悪くなり、かなり過ごしにくい時もあって、気は強いがまだ体力のない藤丸は、時々体調を崩す事があった。
家族全員軍人の一家の中で、いつも出来の悪い役目をしなければならなかったケンは、
言葉は生意気だがまだ幼い彼の様子が目が離せない弟ができた気持ちになっていた。
ーまだ88°Fぐらいあるな。
任務でもっと熱帯に行った事はあるが、東京の暑さは独特だ。
コンクリートの街に反射する太陽の熱で更に気温があがり、それを吸収してくれる木陰は皆無と言ってもいい。
と、バタン、と病室の扉が開いた。
自然と目が行くと、ストレッチャーに載った藤丸が見えた。
ガラガラ、と足早に彼のベッドにそれを横付けした看護士たちは小さい彼の身体をベッドへ移し、点滴を確認する。
ーやっと意識が戻ったな。
ー大体黒雪様はやりすぎなんだ。こんな子どもを。
いくら誰から何も言われないとしても・・・と看護士たちの会話はケンの耳からだんだん遠く過ぎ去って行く。
やつらが病室を出た、と確認したケンは藤丸の様子を見ようとベッドから身体を起こした。
小さな同士の顔を見ると、意識はあるようだが、大部まいっているようだった。
「藤丸、がんばったな。」
頬に手を触れて、撫でると少し嬉しそうな顔をする。
「DadやMomもお前を誇りに思うぞ。」
何の気無しに言ったケンの言葉に、藤丸の表情は凍りついた。
「ねぇよ。」
顔を撫でるケンの手をうるさそうに、避ける。
「Dadは見た事ねぇし、お母さんは・・・・」
幼い、紅い瞳に涙がいっぱい溜まって来る。
「藤丸?」
藤丸の顔が今まで見た事がない表情に歪んだ。
「オレ、こんなとこ居たくないのに・・・・」
その透明なしずくが瞳からぽろぽろ溢れてきた。
思わず藤丸のベッドに移り、その頭を抱き寄せる。
「お母さん・・・」
いつもの気丈な様子は消えて、今にも崩れ落ちそうな、年相応の藤丸がケンの胸に縋り付いて来る。
ー藤丸・・・・・・。
声をころしてケンにしがみついて泣きつく彼を、ぎゅっと抱きしめた。
「あのな、藤丸。」
小1時間程経って、胸に抱きしめていた藤丸が泣き止んできた時にケンが口を開いた。
「俺たちアメリカ人は、hardな事があった時はpartyでばか騒ぎして、憂さ晴らしするんだ。」
何を言いたいのか分からなくて、藤丸はくいっとケンの胸から顔を上げて、その目を見た。
その顔の動きで短いポニテがくるん、と跳ねる。
「だから、、、藤丸だって気晴らしのpartyが必要じゃないか?」
「ぱーてぃー?」
10代にもならない子どもらしい様子の表情が、藤丸の顔に表れる。
「そうだ。」
その可愛らしい頬に触れて、ケンは笑顔を見せる。
「最高にクールでprettyなパーティーを用意してやるから楽しみにしてろよ。」
まだ何を言っているのか分からない藤丸に、カレンダーを指し示す。
「At End of October, Halloween Party for Fujimaru, をやるからな。」
何だかよく分からないが、一生懸命ケンが自分を励まそうとしてるのは分かって少し藤丸の顔が緩む。
「それ楽しみにしてがんばれ。」
ケンが藤丸に言った。
「がんばる。」
少し笑顔を見せた藤丸をケンはまた抱き寄せる。
「だから、もうあんな泣くなよ。」
藤丸の頬に手を触れて、ケンが言った言葉に、涙ながら藤丸は頷いた。
10月30日、ケンの所に大きいダンボールが3箱以上は届いていた。
「親父・・・送りすぎじゃねぇか?」
と言いながら、隣でケンの作業をしげしげと見つめる藤丸に、笑顔を返すケン。
日本の暦では全く節目ではない10月31日の日は、何時もの実験スケジュールをこなして 午後5時までに仕事は全部終わった。
ー今日は、ケンが言っていたパーティーの日だ。
別に楽しみにしているわけではない、と自分に言い聞かせながら自室に向かっているのが、 端から見て可愛らしい意地っ張りだとは誰も反対はしないだろう。
部屋に走り込んで来る藤丸を見つけると、ばすっと魔女のハットをケンは被せた。
「Trick or treat ?」
「?」
「言ってみ。Trick or treat ?」
「Tリックお、とりー?」
「T-ri-ck or T-rea-t. 悪戯か?ご馳走くれるか?だ。」
「Tick or treat !」
「ほら!」
大きい段ボール箱をばさっとひっくり返し、藤丸の目の前に大量のお菓子がまき散らされた。
チュッパチャップスやM&M’s、リコリスキャンディとハーシーズのチョコレート、 Herr’sのポテトチップスにKeeblerのクッキー、他にも色鮮やかなキャンディとチョコレートバーもいろいろ・・・
「すげー!」
普段無機質な床の上があっという間に、お菓子パーティーの会場のようになった。
「ほら、藤丸。どれ着る?」
まき散らしたお菓子の上に、ケンはどさっと別の大きな段ボール箱を置く。
「?」
魔女ハットをかぶったままの藤丸が段ボールに寄ってきて、じっと箱の中身とケンと交互に見る。
「Halloweenでは皆仮装するんだ。」
がさごそと中を漁って、狼のマスクを取り出す。
「werewolf.」
「狼!」
「狼人間!月が丸くなると人間が狼になる。」
ぽん、と藤丸にそれを渡して次の衣装を取り出す。
「Frankenstein!」
「ぶっさいくだなー。」
「人間に恋しちゃうんだ。人間じゃないのに。」
ははっ、と笑って藤丸も段ボールの中を漁る。
「お、これかっケー。」
つやつやと黒光りしている金属的なマスクを取りだす。
「それはダースベーダー。宇宙を暗黒の世界にしようと企む悪役だ。」
へぇーとそれをじっと見て、藤丸はひょいっと帽子をとってマスクをかぶる。
「ダースベーダーはな、この黒マントと、ライトセーバーで・・・・・・」
ぽい、ぽいっとケンが段ボールからマントとそのグッズを取り出す。
藤丸がぎこちなくマントを羽織ろうとするのを、ケンは慣れた手つきで手伝った。
「でな、このライトセーバーが、」
ぽん、とスイッチを入れると、赤い光が刀身に現れブーンという電気音が聞こえてきた。
その剣を振ると、その動きに合わせてフォン、フォン、と電気音が変化して、赤い剣の軌跡が目に微かに残った。
「お前が人間の敵なら、俺は正義の味方だな。」
にやっと笑って、ケンは段ボールからスパイーダーマンのマスクを取り出す。
ライトセーバーを振っていた藤丸が敵の出現に身構えた。
赤い下地ににクモ模様のブルーのマスクをかぶっただけのケンに、笑いをこらえきれないが、 敵なら倒さなければなるまい。
藤丸・ダースベーダー卿はライトセーバーを手に、勇ましくもケン・スパイダーマンに立ち向かったのだった。
「あははははっ!!」
赤いライトセーバーでぽんぽんケンの頭を叩く藤丸に、ケンはもういいかげんにしろよ、 と笑いながらそれを掴んだ。
「よぇーケン、ちょー弱ぇー!!」
「わざとだよ!わざと!今日は藤丸のパーティーだから!」
×戦0勝のケンの今までの戦績では、藤丸的に緊張感もあったもんじゃない。
対ダースベーダー戦のあと、マトリックスとかエイリアンとか、ターミネーターとかティラノとか、 巨神兵とかポケモンとか、段ボールにあるコスプレをやりまくった二人は疲れて一息ついていた。
「楽しーなハロウィーンて。」
藤丸がぶんぶん赤ライトセーバーを振って窓から外の空を見ると、もうすっかり日は落ちて 細い三日月が群青色の空に上っていた。
「俺がガキの頃は、友達と一緒に仮装して近所の家回ってたんだ。」
隣でベッドに座って足をぶらぶらさせている藤丸を自分の方へ抱きかかえる。
そんで、Trick or treat ?って言ってお菓子くれなかったヤツにはいたずらしたりしてさ、とケンは言葉を続けた。
「トモダチ?」
藤丸がケンを見上げる。
「俺と藤丸みたいなカンケーだよ。」
「いいな、・・・それ。」
藤丸は少しうつむき、何か思いに沈んでいるような表情をした。
と、病室の扉がドンドン、と乱暴に叩かれる。
「おい、ここ食事まだ終わってないのか?」
「やべっ!」
とケンが床にまき散らしたお菓子を急いでベッドの下に蹴り入れた。
藤丸もぴょん、と急いでケンのベッドから飛び降りて、脱ぎ散らかした衣装を両手いっぱいに持って、 自分のベッドのシーツをあげてガサッと下に隠す。
もう一度ドンドン、と扉が叩かれ、
「おい、誰もいないのか?」
とガチャ、ドアのノブが回る音がする。
「藤丸、こっちこい。」
ケンが自分のベッドへ手招きして来たので、藤丸はするりとその身体の下に滑り込んだ。
と、扉が開き、巡回の研究員が入って来る気配がした。
ー寝たフリだぞ。
と囁くケンに、うん、と彼にくっついて藤丸は頷く。
わざとらしくいびきをかいて、ケンが研究員の注意を引いた。
「ん?もう寝てるのか?」
研究員は衣装しか入っていない藤丸のベッドは素通りして、ケンの狸寝入りを見に来る。
「電気つけっぱなしで、まったくいくら適合者様だからって、手間掛けさせやがって・・・」
ぱちん、と灯りが消えてコツコツと靴音が遠くなって行き、ドアを閉める音がした。
5分くらい身動きをしなかった二人だが、何も起こらないので藤丸がケンに囁いた。
「行ったか?」
ケンがそっと寝返りを打つ感じで部屋を見回すと、もう部屋にも扉の近くにも人は居ないようだった。
「大丈夫なようだな。」
ばさっとケンが布団を上げて、ぷはー、と息を殺していた藤丸はケンの腕から抜け出した。
「っていうかケン、メシどーするよ?」
忘れてたな、とケンが答える。
「でも、今日はお菓子でいいんじゃないか?」
と付け加えるケンに、藤丸はぷっ、と吹き出した。
つられてケンも笑い出す。
「ケン、お前サイコーだな!」
大笑いしながら、床に散らばっているお菓子をケンは拾って、ほれ、と藤丸に投げてよこす。
窓際にあるケンのベッドに揃って腰掛けて、外の三日月を見ながら二人でSnickersをほおばった。
「あー、ちょー楽しかった!」
Jack-o’-Lanternに灯をともし、お菓子ディナーが一段落ついて足をぶらぶらさせながら、藤丸が言った。
「Statesでは毎年やるんだ。10月過ぎるとどんどん寒くなるから、 まだ温かいうちの最後のばか騒ぎさ。」
ケンがまた段ボールをごそごそ探して、2、3冊本を取り出した。
藤丸の横に座って、二人で見ようとページをめくる。
「ほら、大人も仮装してるだろ。」
ハロウィーンの写真集を開いて、米国の各地の仮装の写真を見せる。
ふーん、と興味深げに見ながら、藤丸はケンの手元にある絵本を手に取って開いた。
「これなんて書いてあるんだ?」
ケンが覗き込むとハロウィーンの起源が簡単に書いてあった。
「Halloween has its origins in the ancient Celtic festival known as Samhaim. えーと、Halloweenの始まりはSamhaimとして知られた昔のCeltの祭りだ、かな?」
「Samhaim? Celt?」
藤丸が返す。
ケンの目は次の文章に移ったが、
「うーん、、俺の日本語力じゃ説明は難しいな。。。」
と困ったように笑った。
ふーん、とぱらぱらと藤丸はページをめくる。
「あ、それジャックランタンの歌だぞ。」
次のページをめくろうとした藤丸の手を止める。
「 ♪Five little pumpkins sitting on a gate.
The first one said, "oh my it's getting late."」
コミカルな様子で歌うケンに、藤丸が無邪気に笑う。
「オレ、ケンの国の言葉知りたいな。」
「教えてやるよ。藤丸が日本語教えてくれたみたいに。」
うん、と頷いて藤丸は何か言いかけて口ごもった。
暗い部屋をぼぉっと照らしているジャックランタンの蝋燭が溶けてきて、 少し灯りが揺れて弱まる。
「オレ、・・・ケンと同室で良かった。」
ぼそっと小さい声で窓の外を見ながら、藤丸が言った。
「俺もだ。藤丸全然泣かないし。」
「お前がぐずぐず泣きすぎなんだよ!」
また怒られて、ケンはははっ、と笑う。
「でもつらい時は、俺の前でまで我慢しなくていいんだぞ。」
ケンの言葉に、藤丸がぴくっと顔を向けた。
「俺たちは友達で、同じ所でがんばってる同士なんだからな。」
うん、と頷いた藤丸は心無しか嬉しそうな表情に見えた。
「いい子にしてたら、来年もHalloween partyやってやる。」
藤丸の頬を拳で優しく撫でる。
「ケ、ケンこそ、いつまでもぐずぐず泣いてたらパーティーに付き合ってやんねーぞ!」
子ども扱いされて、言い返す。
来年も負けねーぞ、と言う藤丸に、Halloweenはバトルじゃないんだから、、とケンが諭したりして、 ハロウィーンの三日月は少しずつ西へ沈んでいくのでした。
ー約10年後ー
「藤ー!、けんから。」
ちょうど時間が空いて、宗一からもらったプログラミングの本を読んでいる藤丸に、白雪の声が聞こえてきた。
きれいな秋晴れの空の下、藤丸が振り向くと、巨大なオレンジのかぼちゃを白雪がごろごろと転がして来ている。
「そんなでかいカボチャ、どうしたんだよ?」
彼女には重いだろうと、すぐに読みかけの本を伏せて走りより、彼女からカボチャを受け取った。
「けんが、藤にわたせば分かるって。」
ごろっと転がすと思ったよりも軽くて、見るとジャックランタンの顔がもう彫ってある。
「お、そろそろ準備しようぜってことか。」
「?」
白雪が不思議そうに、藤丸の顔をじっと見た。
「ハロウィーン・パーティー、月末にやろうぜ。」
膝を折ってしゃがみ、白雪に視線を合わせて言う。
「??」
訳が分からない顔をしている白雪は、昔の自分を見ているようだった。
「Trick or treat ?って言ってお菓子いっぱいもらえるんだ。」
「Tりっくお、とりー?」
お菓子、と聞いて白雪の顔が少し嬉しそうになった。
「あと、仮装してさ、白雪は魔女か黒猫がいいかな。」
急いで宗一の本を取りに行ってから、白雪の手を取った。
「楽しいぞ。ハロウィーンは。」
と笑顔を見せて、オレは吸血鬼でも今年はやるか、と言って、ケンどこだ?、と聞く。
「あっちー!」
と指し示す白雪を抱き上げて、カボチャを蹴りながらその方向へ向かった。
雲一つない高い青い空に飛行機が横切って、その軌跡がきれいな白い線を作っていく。
「白雪、このカボチャの歌知ってるか?」
足下のカボチャを示して聞くと、ふるふる、と白雪は頭を振った。
「♪Five little pumpkins sitting on a gate」
「♪ふぁいぶ、りとーパンプキンズ、シッティンオンなゲー」
「うまいな。」
白雪が嬉しそうに、ぺちぺち藤丸の頬を叩く。
「イテーよ。」
と言いながら
続きを藤丸は口ずさむ。
♪The first one said, "oh my it's getting late."
♪The second one said, "there are witches in the air."
♪The third one said, "but we don't care!"
♪The fourth one said, "let's run and run and run."
♪The fifth one said, "I'm ready for some fun!"
♪OOOhh OOOhh went the wind
♪And out went the lights
♪And the five little pumpkins rolled out of sight.
Happy Halloween !
大人、はともかく外国人が来るのは珍しい。
まだ本適合前の過程のようで、ベッドの間のカーテンがシャッとすぐに看護士に閉められる。
いつもと少し違う隣人に、藤丸は少し興味を持った。
白い柱と白衣の人々。所々コンクリート打ちっぱなしの建物の階下から絶え間なく漏れ出て来る人の苦痛の声。
最初にここに閉じ込められた時、藤丸はこんな所は自分の居場所じゃないと、何度か抜け出そうと試みた。
オカネを受け取っていたお母さんも、きっとそのうち自分の事が気になって手を差し伸べてくれると思っていたのだ。
でも、体力が回復する度に負荷が増す実験、自分の反応を記録するだけでその他は何も反応しない大人、 そして自分の様子を満足げに見る黒い女ー・・・・・・。
少しずつ、少しずつ藤丸の心は外部からの刺激をシャットダウンして、自分が傷つかないように、 自分に無関心な人間には感情を見せないようになっていった。
そんな日々に慣れていった時、いつもと少し違うイベントが今回起こっただけだった。
仕切りのカーテンは閉じられたままで、時節うめき声や、泣き声が聞こえてきたが そんなのは今まで隣に来た囚人で慣れっこだった。
ーこいつ持つのかな。
心配はしていないが、興味はあった。
それも、日々のつらい実験スケジュールの合間の気晴らし程度だったが・・・
ある日シャッと間のカーテンを開けられて、藤丸はぴくっとした。
隣には以前見た金髪の男がいた。
看護士は点滴がうまく入っているか確認しただけでさっさと帰って行く。
「Hi, pretty boy ...」
その男は藤丸がいる事が分かったらしく、声をかけてきた。
まだ身体がつらいようで、息が安定していない。
"Oh, your are only a kid, ......isn’t this place hard to live for you, is it ?...... I’ve experienced the toughest time in my life."
「?」
男の顔を凝視している幼い紅い目が不思議そうに見る。
"Ah...here is in Japan...."
青い目が藤丸をじっと見た。
一呼吸して、
「ケンだ。I’m Ken, and you?」
青い目が名乗って促すように、藤丸を見た。
「藤丸。」
「Fuji?」
「フ、ジ、マ、ル。」
「Fujimaru, yoroshiku.」
左手を差し出してきたので、思わず両手を差し出した。
その手を掴み、ケンはにこっと笑って藤丸を見る。
それが最初の出会いだった。
「お前、また泣くのか?」
会って三ヶ月後、いつもの実験が終わって、ベッドに潜り込み布団を頭からかぶったケンに 藤丸が不機嫌そうに言った。
「痛いんだ。ほっといてくれ。」
布団も上げずにケンは泣き声で返してきた。
「お前ぐずぐず、うるせーんだよ。ゆっくり寝れねーし。」
ううっ、と既に泣き声が聞こえてきて藤丸はうっとーしー、とケンの寝ている布団の辺りをじろっと見た。
「だいたいさー、泣いたってなんもないんだぜ。ここは。」
藤丸は自分が直近でつらくて涙が出た事いつだっけ、と思い出していた。
一番最近泣いたのは、6ヶ月前だったか、実験がひどすぎて動けなくなって、栄養を入れる点滴を刺す血管を10回ぐらい間違えやがって、最後にそのへたくそな看護士の針が変な所に刺さって、その後あいつは大事な成功例に何するんだって、上長に殴られてたっけ。
あんときはさすがに痛くて、一粒くらい涙でたな、と反芻した。
「藤丸、・・・・・・お前強いな。」
布団の奥から、ケンが言って来る。
「そーだよ!お前なんかより強いんだよ!」
ボスッ、とケンの布団を叩いて、自分のベッドに潜り込む。
ー色々ありすぎて、もう泣けるネタなんかねーんだよ。
お前、声上げて泣いたらぶっ殺すからな、と言って藤丸は目を閉じ、誰にも邪魔されない柔らかな眠りの時間に落ちていった。
ここ2、3日藤丸が実験から帰って来ない。
隣の温もりの冷めきったベッドを見てケンは、最近できた小さい同士の安否を心配していた。
日本の10月はケンが知っている米国のよりもかなり気温が高く、太陽の光も強い。
室内の空調は行き届いているが、時に調子が悪くなり、かなり過ごしにくい時もあって、気は強いがまだ体力のない藤丸は、時々体調を崩す事があった。
家族全員軍人の一家の中で、いつも出来の悪い役目をしなければならなかったケンは、
言葉は生意気だがまだ幼い彼の様子が目が離せない弟ができた気持ちになっていた。
ーまだ88°Fぐらいあるな。
任務でもっと熱帯に行った事はあるが、東京の暑さは独特だ。
コンクリートの街に反射する太陽の熱で更に気温があがり、それを吸収してくれる木陰は皆無と言ってもいい。
と、バタン、と病室の扉が開いた。
自然と目が行くと、ストレッチャーに載った藤丸が見えた。
ガラガラ、と足早に彼のベッドにそれを横付けした看護士たちは小さい彼の身体をベッドへ移し、点滴を確認する。
ーやっと意識が戻ったな。
ー大体黒雪様はやりすぎなんだ。こんな子どもを。
いくら誰から何も言われないとしても・・・と看護士たちの会話はケンの耳からだんだん遠く過ぎ去って行く。
やつらが病室を出た、と確認したケンは藤丸の様子を見ようとベッドから身体を起こした。
小さな同士の顔を見ると、意識はあるようだが、大部まいっているようだった。
「藤丸、がんばったな。」
頬に手を触れて、撫でると少し嬉しそうな顔をする。
「DadやMomもお前を誇りに思うぞ。」
何の気無しに言ったケンの言葉に、藤丸の表情は凍りついた。
「ねぇよ。」
顔を撫でるケンの手をうるさそうに、避ける。
「Dadは見た事ねぇし、お母さんは・・・・」
幼い、紅い瞳に涙がいっぱい溜まって来る。
「藤丸?」
藤丸の顔が今まで見た事がない表情に歪んだ。
「オレ、こんなとこ居たくないのに・・・・」
その透明なしずくが瞳からぽろぽろ溢れてきた。
思わず藤丸のベッドに移り、その頭を抱き寄せる。
「お母さん・・・」
いつもの気丈な様子は消えて、今にも崩れ落ちそうな、年相応の藤丸がケンの胸に縋り付いて来る。
ー藤丸・・・・・・。
声をころしてケンにしがみついて泣きつく彼を、ぎゅっと抱きしめた。
「あのな、藤丸。」
小1時間程経って、胸に抱きしめていた藤丸が泣き止んできた時にケンが口を開いた。
「俺たちアメリカ人は、hardな事があった時はpartyでばか騒ぎして、憂さ晴らしするんだ。」
何を言いたいのか分からなくて、藤丸はくいっとケンの胸から顔を上げて、その目を見た。
その顔の動きで短いポニテがくるん、と跳ねる。
「だから、、、藤丸だって気晴らしのpartyが必要じゃないか?」
「ぱーてぃー?」
10代にもならない子どもらしい様子の表情が、藤丸の顔に表れる。
「そうだ。」
その可愛らしい頬に触れて、ケンは笑顔を見せる。
「最高にクールでprettyなパーティーを用意してやるから楽しみにしてろよ。」
まだ何を言っているのか分からない藤丸に、カレンダーを指し示す。
「At End of October, Halloween Party for Fujimaru, をやるからな。」
何だかよく分からないが、一生懸命ケンが自分を励まそうとしてるのは分かって少し藤丸の顔が緩む。
「それ楽しみにしてがんばれ。」
ケンが藤丸に言った。
「がんばる。」
少し笑顔を見せた藤丸をケンはまた抱き寄せる。
「だから、もうあんな泣くなよ。」
藤丸の頬に手を触れて、ケンが言った言葉に、涙ながら藤丸は頷いた。
10月30日、ケンの所に大きいダンボールが3箱以上は届いていた。
「親父・・・送りすぎじゃねぇか?」
と言いながら、隣でケンの作業をしげしげと見つめる藤丸に、笑顔を返すケン。
日本の暦では全く節目ではない10月31日の日は、何時もの実験スケジュールをこなして 午後5時までに仕事は全部終わった。
ー今日は、ケンが言っていたパーティーの日だ。
別に楽しみにしているわけではない、と自分に言い聞かせながら自室に向かっているのが、 端から見て可愛らしい意地っ張りだとは誰も反対はしないだろう。
部屋に走り込んで来る藤丸を見つけると、ばすっと魔女のハットをケンは被せた。
「Trick or treat ?」
「?」
「言ってみ。Trick or treat ?」
「Tリックお、とりー?」
「T-ri-ck or T-rea-t. 悪戯か?ご馳走くれるか?だ。」
「Tick or treat !」
「ほら!」
大きい段ボール箱をばさっとひっくり返し、藤丸の目の前に大量のお菓子がまき散らされた。
チュッパチャップスやM&M’s、リコリスキャンディとハーシーズのチョコレート、 Herr’sのポテトチップスにKeeblerのクッキー、他にも色鮮やかなキャンディとチョコレートバーもいろいろ・・・
「すげー!」
普段無機質な床の上があっという間に、お菓子パーティーの会場のようになった。
「ほら、藤丸。どれ着る?」
まき散らしたお菓子の上に、ケンはどさっと別の大きな段ボール箱を置く。
「?」
魔女ハットをかぶったままの藤丸が段ボールに寄ってきて、じっと箱の中身とケンと交互に見る。
「Halloweenでは皆仮装するんだ。」
がさごそと中を漁って、狼のマスクを取り出す。
「werewolf.」
「狼!」
「狼人間!月が丸くなると人間が狼になる。」
ぽん、と藤丸にそれを渡して次の衣装を取り出す。
「Frankenstein!」
「ぶっさいくだなー。」
「人間に恋しちゃうんだ。人間じゃないのに。」
ははっ、と笑って藤丸も段ボールの中を漁る。
「お、これかっケー。」
つやつやと黒光りしている金属的なマスクを取りだす。
「それはダースベーダー。宇宙を暗黒の世界にしようと企む悪役だ。」
へぇーとそれをじっと見て、藤丸はひょいっと帽子をとってマスクをかぶる。
「ダースベーダーはな、この黒マントと、ライトセーバーで・・・・・・」
ぽい、ぽいっとケンが段ボールからマントとそのグッズを取り出す。
藤丸がぎこちなくマントを羽織ろうとするのを、ケンは慣れた手つきで手伝った。
「でな、このライトセーバーが、」
ぽん、とスイッチを入れると、赤い光が刀身に現れブーンという電気音が聞こえてきた。
その剣を振ると、その動きに合わせてフォン、フォン、と電気音が変化して、赤い剣の軌跡が目に微かに残った。
「お前が人間の敵なら、俺は正義の味方だな。」
にやっと笑って、ケンは段ボールからスパイーダーマンのマスクを取り出す。
ライトセーバーを振っていた藤丸が敵の出現に身構えた。
赤い下地ににクモ模様のブルーのマスクをかぶっただけのケンに、笑いをこらえきれないが、 敵なら倒さなければなるまい。
藤丸・ダースベーダー卿はライトセーバーを手に、勇ましくもケン・スパイダーマンに立ち向かったのだった。
「あははははっ!!」
赤いライトセーバーでぽんぽんケンの頭を叩く藤丸に、ケンはもういいかげんにしろよ、 と笑いながらそれを掴んだ。
「よぇーケン、ちょー弱ぇー!!」
「わざとだよ!わざと!今日は藤丸のパーティーだから!」
×戦0勝のケンの今までの戦績では、藤丸的に緊張感もあったもんじゃない。
対ダースベーダー戦のあと、マトリックスとかエイリアンとか、ターミネーターとかティラノとか、 巨神兵とかポケモンとか、段ボールにあるコスプレをやりまくった二人は疲れて一息ついていた。
「楽しーなハロウィーンて。」
藤丸がぶんぶん赤ライトセーバーを振って窓から外の空を見ると、もうすっかり日は落ちて 細い三日月が群青色の空に上っていた。
「俺がガキの頃は、友達と一緒に仮装して近所の家回ってたんだ。」
隣でベッドに座って足をぶらぶらさせている藤丸を自分の方へ抱きかかえる。
そんで、Trick or treat ?って言ってお菓子くれなかったヤツにはいたずらしたりしてさ、とケンは言葉を続けた。
「トモダチ?」
藤丸がケンを見上げる。
「俺と藤丸みたいなカンケーだよ。」
「いいな、・・・それ。」
藤丸は少しうつむき、何か思いに沈んでいるような表情をした。
と、病室の扉がドンドン、と乱暴に叩かれる。
「おい、ここ食事まだ終わってないのか?」
「やべっ!」
とケンが床にまき散らしたお菓子を急いでベッドの下に蹴り入れた。
藤丸もぴょん、と急いでケンのベッドから飛び降りて、脱ぎ散らかした衣装を両手いっぱいに持って、 自分のベッドのシーツをあげてガサッと下に隠す。
もう一度ドンドン、と扉が叩かれ、
「おい、誰もいないのか?」
とガチャ、ドアのノブが回る音がする。
「藤丸、こっちこい。」
ケンが自分のベッドへ手招きして来たので、藤丸はするりとその身体の下に滑り込んだ。
と、扉が開き、巡回の研究員が入って来る気配がした。
ー寝たフリだぞ。
と囁くケンに、うん、と彼にくっついて藤丸は頷く。
わざとらしくいびきをかいて、ケンが研究員の注意を引いた。
「ん?もう寝てるのか?」
研究員は衣装しか入っていない藤丸のベッドは素通りして、ケンの狸寝入りを見に来る。
「電気つけっぱなしで、まったくいくら適合者様だからって、手間掛けさせやがって・・・」
ぱちん、と灯りが消えてコツコツと靴音が遠くなって行き、ドアを閉める音がした。
5分くらい身動きをしなかった二人だが、何も起こらないので藤丸がケンに囁いた。
「行ったか?」
ケンがそっと寝返りを打つ感じで部屋を見回すと、もう部屋にも扉の近くにも人は居ないようだった。
「大丈夫なようだな。」
ばさっとケンが布団を上げて、ぷはー、と息を殺していた藤丸はケンの腕から抜け出した。
「っていうかケン、メシどーするよ?」
忘れてたな、とケンが答える。
「でも、今日はお菓子でいいんじゃないか?」
と付け加えるケンに、藤丸はぷっ、と吹き出した。
つられてケンも笑い出す。
「ケン、お前サイコーだな!」
大笑いしながら、床に散らばっているお菓子をケンは拾って、ほれ、と藤丸に投げてよこす。
窓際にあるケンのベッドに揃って腰掛けて、外の三日月を見ながら二人でSnickersをほおばった。
「あー、ちょー楽しかった!」
Jack-o’-Lanternに灯をともし、お菓子ディナーが一段落ついて足をぶらぶらさせながら、藤丸が言った。
「Statesでは毎年やるんだ。10月過ぎるとどんどん寒くなるから、 まだ温かいうちの最後のばか騒ぎさ。」
ケンがまた段ボールをごそごそ探して、2、3冊本を取り出した。
藤丸の横に座って、二人で見ようとページをめくる。
「ほら、大人も仮装してるだろ。」
ハロウィーンの写真集を開いて、米国の各地の仮装の写真を見せる。
ふーん、と興味深げに見ながら、藤丸はケンの手元にある絵本を手に取って開いた。
「これなんて書いてあるんだ?」
ケンが覗き込むとハロウィーンの起源が簡単に書いてあった。
「Halloween has its origins in the ancient Celtic festival known as Samhaim. えーと、Halloweenの始まりはSamhaimとして知られた昔のCeltの祭りだ、かな?」
「Samhaim? Celt?」
藤丸が返す。
ケンの目は次の文章に移ったが、
「うーん、、俺の日本語力じゃ説明は難しいな。。。」
と困ったように笑った。
ふーん、とぱらぱらと藤丸はページをめくる。
「あ、それジャックランタンの歌だぞ。」
次のページをめくろうとした藤丸の手を止める。
「 ♪Five little pumpkins sitting on a gate.
The first one said, "oh my it's getting late."」
コミカルな様子で歌うケンに、藤丸が無邪気に笑う。
「オレ、ケンの国の言葉知りたいな。」
「教えてやるよ。藤丸が日本語教えてくれたみたいに。」
うん、と頷いて藤丸は何か言いかけて口ごもった。
暗い部屋をぼぉっと照らしているジャックランタンの蝋燭が溶けてきて、 少し灯りが揺れて弱まる。
「オレ、・・・ケンと同室で良かった。」
ぼそっと小さい声で窓の外を見ながら、藤丸が言った。
「俺もだ。藤丸全然泣かないし。」
「お前がぐずぐず泣きすぎなんだよ!」
また怒られて、ケンはははっ、と笑う。
「でもつらい時は、俺の前でまで我慢しなくていいんだぞ。」
ケンの言葉に、藤丸がぴくっと顔を向けた。
「俺たちは友達で、同じ所でがんばってる同士なんだからな。」
うん、と頷いた藤丸は心無しか嬉しそうな表情に見えた。
「いい子にしてたら、来年もHalloween partyやってやる。」
藤丸の頬を拳で優しく撫でる。
「ケ、ケンこそ、いつまでもぐずぐず泣いてたらパーティーに付き合ってやんねーぞ!」
子ども扱いされて、言い返す。
来年も負けねーぞ、と言う藤丸に、Halloweenはバトルじゃないんだから、、とケンが諭したりして、 ハロウィーンの三日月は少しずつ西へ沈んでいくのでした。
ー約10年後ー
「藤ー!、けんから。」
ちょうど時間が空いて、宗一からもらったプログラミングの本を読んでいる藤丸に、白雪の声が聞こえてきた。
きれいな秋晴れの空の下、藤丸が振り向くと、巨大なオレンジのかぼちゃを白雪がごろごろと転がして来ている。
「そんなでかいカボチャ、どうしたんだよ?」
彼女には重いだろうと、すぐに読みかけの本を伏せて走りより、彼女からカボチャを受け取った。
「けんが、藤にわたせば分かるって。」
ごろっと転がすと思ったよりも軽くて、見るとジャックランタンの顔がもう彫ってある。
「お、そろそろ準備しようぜってことか。」
「?」
白雪が不思議そうに、藤丸の顔をじっと見た。
「ハロウィーン・パーティー、月末にやろうぜ。」
膝を折ってしゃがみ、白雪に視線を合わせて言う。
「??」
訳が分からない顔をしている白雪は、昔の自分を見ているようだった。
「Trick or treat ?って言ってお菓子いっぱいもらえるんだ。」
「Tりっくお、とりー?」
お菓子、と聞いて白雪の顔が少し嬉しそうになった。
「あと、仮装してさ、白雪は魔女か黒猫がいいかな。」
急いで宗一の本を取りに行ってから、白雪の手を取った。
「楽しいぞ。ハロウィーンは。」
と笑顔を見せて、オレは吸血鬼でも今年はやるか、と言って、ケンどこだ?、と聞く。
「あっちー!」
と指し示す白雪を抱き上げて、カボチャを蹴りながらその方向へ向かった。
雲一つない高い青い空に飛行機が横切って、その軌跡がきれいな白い線を作っていく。
「白雪、このカボチャの歌知ってるか?」
足下のカボチャを示して聞くと、ふるふる、と白雪は頭を振った。
「♪Five little pumpkins sitting on a gate」
「♪ふぁいぶ、りとーパンプキンズ、シッティンオンなゲー」
「うまいな。」
白雪が嬉しそうに、ぺちぺち藤丸の頬を叩く。
「イテーよ。」
と言いながら
続きを藤丸は口ずさむ。
♪The first one said, "oh my it's getting late."
♪The second one said, "there are witches in the air."
♪The third one said, "but we don't care!"
♪The fourth one said, "let's run and run and run."
♪The fifth one said, "I'm ready for some fun!"
♪OOOhh OOOhh went the wind
♪And out went the lights
♪And the five little pumpkins rolled out of sight.
Happy Halloween !